小池百合子東京都知事は新型コロナウイルス対策において、3月30日夜の緊急記者会見で無慈悲にもこう告げた。
「若者にはカラオケ・ライブハウス、中高年にはバー・ナイトクラブなど接待を伴う飲食店に行くのは当面お控えいただきたい」
中高年の我々にとっての楽しみである「接待を伴う飲食店」とはおおまかにいえば、キャバクラであり、ガールズバーだ。それが奪われてしまう――。
この連載始まって以来の危機に見舞われそうなとき、俺は東武東上線に揺られていた。降り立ったのは埼玉県朝霞市。「自粛要請」が発令された東京都の境からわずかひと駅の場所。終戦後には、米軍キャンプが置かれ、今では自衛隊が駐屯する「基地の街」というイメージだが……。
おなじみ夜遊びガイドのO氏が「超入りづらいガールズバーを見つけたんで、このご時世は承知ですが、一緒にいきませんか」と写メを送ってきたからだ。
’00年代の「浄化作戦」後の歌舞伎町の光景を彷彿とさせる「白看板」。赤マジックで弱々しく躍る「高級おんなバー楓」の文字。「かえで」は「木」と「風」がそれぞれ読めそうなぐらい離れており、尋常ではない雰囲気を醸し出している。
一見を寄せつけぬ看板とビルの佇まい
西口と比べてかなり静かなほう、朝霞駅東口から徒歩3分の古風で無骨で、ひときわ目立つ雑居ビル。地方都市にありがちな一見を拒む「怖そうなビル」があった。
階段横には写メで見た「白看板」。階段を上がると再び手書きの看板。今度は大きく余白を残して「高級おんなバー」と決して上手とは言えない手書き文字で書かれている。
恐る恐る重い鉄製のドアを開ける。そっと中を覗き込むと、女のコと目が合ってしまった。
「いらっしゃいませ〜!」意を決してドアを開けると、エントランスにずらりと並ぶ靴。そのまま上がり込もうとしたO氏に「土禁! 土禁!」との声が飛ぶ。
広いフロアの周りにカウンター、女のコをぐるりと囲むように男性客が高椅子に座っている。聞けばここは和風ガールズバー。床にはなぜか玉砂利が敷かれていたり、行灯があったりと妙に落ち着いた雰囲気。靴を脱いで上がる。
「朝霞で唯一のガールズバー。スナックはあるけどキャバクラはないから、若いコと飲むならここだと、結構お客さんが来ますね」なるほど、諸先輩方から若者まで幅広い年齢層が集っている。
説明してくれたさーりちゃん、ゆうなちゃんと乾杯しつつ、外の「白看板」について尋ねる。
「以前はちゃんとした看板だったんだけど、あるときから手書きにしました。怪しげな雰囲気が出ちゃって、今ではインスタに載せるお客さんが続出するほどなの!」
客が消したり、勝手に文字を書き加えたりと、さながら「落書きボード」。よく見ると文字が消えかかっていたりとカオスだ。
サブスクも導入! 朝霞で唯一のガールズバー
カオスと言えばその値段設定。
「通常1セット60分飲み放題で3500円だけど、サブスクもやってるんですよ!」
と胸を張るりなちゃん。朝霞とサブスクのミスマッチたるや。この3月から始めたというこのシステム。3回通って「常連認定」されれば、晴れて3万円で1か月何度通っても定額という料金プランの選択権が付与される。すでに10人ほどの常連さんがその恩恵を受けているそうで、連日訪れる猛者もいると聞く。
カラオケをする人、女のコに囲まれダーツをする人、しっぽり飲む人、靴を脱ぎくつろぐこの店は「緩やかな時間」が流れている。殺伐とした都内からひと駅下るだけでこんなに穏やかに飲めるものなのか。サブスクの権利を獲得するまで通ってみようか……。【がーるずばー楓】
住:埼玉県朝霞市仲町2-2-11 セイコーガーデン朝霞202
電:090-2319-8607
営:21:00〜ラスト
休:日
料:60分1セット3500円(焼酎・ウィスキー・ブランデー飲み放題)、サブスクリプション制1か月3万円(上記飲み放題+ダーツ+カラオケ歌い放題)
協力/O氏(夜遊びガイド) 撮影/渡辺秀之
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苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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