「俺、Mっぽい」よくあるSM談議がどれだけ浅いかを思い知った夜

 大山海著『奈良へ』は傑作だ。漫画でありながら、漫画を読んでいる気がまったくしない。これは映画なのか、文学なのか? ふと似た感覚に襲われた記憶が甦る。学生時代に読んだ、喜国雅彦著『月光の囁き』だ。

月光の囁き

’94年、『ヤングサンデー』にて連載開始、全6巻。’99年、実写映画化され、熱烈なファンも多い

 高校剣道部が舞台の青春物語が、やがてリアルなSMへと展開していく──当時の衝撃を思い返しながら、新宿二丁目のフェティッシュバー「アマルコルド」を訪れてみた。

俺の夜本当のSMとは、“脳汁で遊ぶ”こと

「SEXとSMは別ってわかってないんだよね。M男以下でしょ」

 席に着くなり、女性客の剣呑な会話が耳に飛び込む。SM自体ずぶの素人の自分は、よほど素っ頓狂な顔をしていたのだろう。代表のアンジーさんが優しく教えてくれた(外見はドS女王様でビビったが、すごく気さく!)。

俺の夜

代表のアンジーさん。「ここで意気投合して主従関係になる方も。SMは体力がいるのでヘルシー。皆さん、元気ですね(笑)」

「SEXって、結局は射精で終わりでしょ。でも、SMの基本は人間関係。『この人、どんな反応するんだろう?』って、お互いを掘り下げ合い、しかも、そこには果てがない。深いからこそ求めるものが十人十色で、合う合わないが激しいし、SEXとは別物なんです」

俺の夜 M女の雛りなさんが続ける。

「脳汁で遊ぶのがSMなんです~。だから、変態さんほど単純な性から遠ざかります。SMプレイって、肉体的な刺激に目がいきがちですけど、実際は精神的な快楽のほうが断然大きいんです」

俺の夜

雛りなさんの背中には、見事なスカリフィケーション(皮膚を傷つけ、ケロイドを利用して描く文様)。「元メンヘラだけど、M女やり始めてから生き生きしちゃって(笑)。SMは心の筋トレなんです~」

SMネタと本当のSMの違いを教えてあげる

 講義に夢中になっている間に盛況となった店内には、意外と紳士淑女が多い。「『偉くなって叱られなくなっちゃって』と40、50歳からM男を始める奴隷もいるわね」と教えてくれた花子女王様に「自分もMだと思うのですが……」と打ち明けてみる。

俺の夜

いきなり鞭をねだるなんて愚かな男ね

「責められるのが好きなのね。だったら、『それはさすがに嫌だな』ってことはできる?

俺の夜

軽いノリで花子女王様に鞭をお願いすると、徹底的に放置された。SMは信頼関係。初対面で恥知らずにも晒した背中を猛省する

 できないの? じゃあ、ただの“エゴマゾ”ね。あなた、奴隷以下の最下層よ。エゴマゾ、エゴサドっていうのは、“やりたいことしかやらないヤツ”。たとえば『痴女に責められたい』って、結局、自分が望むことをしてほしいだけ。本当のM男は、女王様が喜んでくださるならって、嫌なこともできる人ね」

 雛りなさんが続ける。

俺の夜 俺の夜「でも、SMはいじめじゃないから、ガチで嫌なことはしちゃダメ。だから、信頼関係が何より大事。信頼関係もないのに『俺、Sなんだよね』とか言いだす人は、SMの範疇ですらない、“シンプルに性格の悪いクソ野郎”です~」

 SM道、深すぎる! これで「ウチは初心者歓迎の入門編よ」(アンジーさん)というから、その深淵、計り知れない。

俺の夜【フェティッシュバー「アマルコルド」】
住:東京都新宿区新宿2-18-7 S3ビル1F
営:17:00~20:00(木・金)16:00~20:00(土・日)
休:月・火・水
料:チャージ1h6000円(男性)、3000円(女性)飲み放題

※詳細や最新の営業情報はtel:03-6457-7477もしくはTwitter(@amarcordtokyo)にて

※営業時間や酒類提供の有無が時期により異なる可能性があります。店舗にお問い合わせください。

撮影/髙橋慶佑

オチョコ 酒場で夜な夜な号泣し、ついた通り名がお猪口のチョコ。座右の銘は「バーは謝りに行く所」
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