大山海著『奈良へ』は傑作だ。漫画でありながら、漫画を読んでいる気がまったくしない。これは映画なのか、文学なのか? ふと似た感覚に襲われた記憶が甦る。学生時代に読んだ、喜国雅彦著『月光の囁き』だ。
高校剣道部が舞台の青春物語が、やがてリアルなSMへと展開していく──当時の衝撃を思い返しながら、新宿二丁目のフェティッシュバー「アマルコルド」を訪れてみた。「SEXとSMは別ってわかってないんだよね。M男以下でしょ」
席に着くなり、女性客の剣呑な会話が耳に飛び込む。SM自体ずぶの素人の自分は、よほど素っ頓狂な顔をしていたのだろう。代表のアンジーさんが優しく教えてくれた(外見はドS女王様でビビったが、すごく気さく!)。
「SEXって、結局は射精で終わりでしょ。でも、SMの基本は人間関係。『この人、どんな反応するんだろう?』って、お互いを掘り下げ合い、しかも、そこには果てがない。深いからこそ求めるものが十人十色で、合う合わないが激しいし、SEXとは別物なんです」「脳汁で遊ぶのがSMなんです~。だから、変態さんほど単純な性から遠ざかります。SMプレイって、肉体的な刺激に目がいきがちですけど、実際は精神的な快楽のほうが断然大きいんです」
SMネタと本当のSMの違いを教えてあげる講義に夢中になっている間に盛況となった店内には、意外と紳士淑女が多い。「『偉くなって叱られなくなっちゃって』と40、50歳からM男を始める奴隷もいるわね」と教えてくれた花子女王様に「自分もMだと思うのですが……」と打ち明けてみる。
「責められるのが好きなのね。だったら、『それはさすがに嫌だな』ってことはできる? できないの? じゃあ、ただの“エゴマゾ”ね。あなた、奴隷以下の最下層よ。エゴマゾ、エゴサドっていうのは、“やりたいことしかやらないヤツ”。たとえば『痴女に責められたい』って、結局、自分が望むことをしてほしいだけ。本当のM男は、女王様が喜んでくださるならって、嫌なこともできる人ね」雛りなさんが続ける。
「でも、SMはいじめじゃないから、ガチで嫌なことはしちゃダメ。だから、信頼関係が何より大事。信頼関係もないのに『俺、Sなんだよね』とか言いだす人は、SMの範疇ですらない、“シンプルに性格の悪いクソ野郎”です~」
SM道、深すぎる! これで「ウチは初心者歓迎の入門編よ」(アンジーさん)というから、その深淵、計り知れない。
【フェティッシュバー「アマルコルド」】
住:東京都新宿区新宿2-18-7 S3ビル1F
営:17:00~20:00(木・金)16:00~20:00(土・日)
休:月・火・水
料:チャージ1h6000円(男性)、3000円(女性)飲み放題
※詳細や最新の営業情報はtel:03-6457-7477もしくはTwitter(@amarcordtokyo)にて
※営業時間や酒類提供の有無が時期により異なる可能性があります。店舗にお問い合わせください。
撮影/髙橋慶佑
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オチョコ 酒場で夜な夜な号泣し、ついた通り名がお猪口のチョコ。座右の銘は「バーは謝りに行く所」
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