新宿二丁目は異性愛者、俗に言うノンケに優しいし、そうした客も増えた。だが、スタッフがノンケの女性というのは珍しい。女装系ミックスバー「羽舞」のよーこさんは、伊勢丹の美容部員から二丁目に身を投じた。
「職場に近いから、最初はお客さんとして来ていて、すごく居心地がよかったんです。分け隔てがなくて、仕事なら口も利けないようなご年配の紳士淑女ともお話ができる。気がついたら、ここで働くようになっていました」“つまらないただの女”とは、絶対に言わせない!
だが、世間的には美人の元美容部員も、二丁目ではマイノリティ。「あなた女性?」「ママいないの?」など、そっけない言葉を投げかけられることもあったという。
「ただのつまらない女だと思われたら悔しくて、そのたびに泣いていました。でも、やっぱりここが好き。逆に、そういう人ほど接客で認めさせてやる!って燃えました」
はぶらし☆のぞみママも頼もしげに彼女を見守る。
「まだ若いからうまくいかないこともあるけれど、愛が深いから大丈夫。妻はいずれ二丁目のビッグマムになれると思ってるわ」たしかにこの笑顔、すでに虜になりかけて……って、つ、つ、妻!?
「女装しているけれど中身は男なんです。私から惚れて、猛アタックしちゃいました」(よーこさん)
女装のママがパートナーだとは……出会って5分でまさかの失恋。ま、まあ二丁目ではよくあること。
娘が二丁目の住人と結婚することに、両親はどう思ったのだろう?
「父は新宿でシェフをやっている堅物な人です。でも、受け入れてくれて、この店にも何度も来て、『お前の結婚がなかったら、俺は一生この人たちに偏見を持ったまま生きていたかもしれないな。ありがとう』と言ってくれています」
一方、いまだに両親には打ち明けていないというのぞみママ。
「バーをやっているとだけしか。この記事でバレたら……まあ、それでもいいかな!」
なぜなら、隣に最大の理解者がいるから――言葉の裏から、二人の固い絆が伝わる。って、のろけばかりじゃ酒が進まないっしょ! そんな自分の横に、スタッフのゆいさん。なんだろう……北条司が描く女性のような色気。ファッションもメイクもトレンドに流されない美意識がカッコイイ。日頃から、そんなセクシーな格好を?
「そうですね。長野から出てきて、二丁目を知って、女装もエスカレートしてきているかも。今は恋人募集中で、二丁目の外にも踏み出してみようと思っているんです」そういうことなら、その気になっている男がここにいますがっ!
「あ、でもわたし女性が好きなんです」(ゆいさん)
「わたしもそうだけど、特に最近の若いコは、ノンケで女装するコが本当に多いよねー。そういうタイプは、基本的に女性が好きすぎて女装しているから、普通に女好き。しかも、女装していると女のコのガードも下がりやすくて、意外とモテるのよね」(のぞみママ)
なんだよそれ……それならそうと最初から言ってくれよ。寄ってたかって純情を弄びやがって!
ママと看板娘の二人三脚。秋の夜長に女装が映える
「惚れた男がゲイだったときの女の気持ち、わかってよかったじゃないですか~。それに人として好きなら、それで十分。セクシュアリティはグラデーションだし、決めつけるなんてつまらない! ゆいちゃんにも女性の部分はあるはずだから、惚れさせてみなさいよって。ま、とりあえずやけ酒で乾杯しましょ(笑)」
そう言ってグラスにウイスキーを注ぐよーこさん。たしかに! 一瞬で妙な納得感に包まれ、この夜、二度の失恋の痛みも消し飛んでいく……よーこさん、あんた二丁目のビッグマムになれるよ!
【Bar「羽舞」】住:東京都新宿区新宿2-14-11 リノベイト新宿ビル2F
電:03-3226-7802
営:19:00~
休:火・木
料:チャージ1500円(2時間)ドリンク700円~(ボトルキープ制もあり)
※詳細や最新の営業情報は電話もしくはTwitter(@Bar_hanemai)にて
撮影/髙橋慶佑 ヘアメイク/清水智也(ゆいさん)
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