第百十夜【後編】

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 旧市街からタクシーに乗ること30分。ちょっと不安になるような辺鄙な場所に突如現れる宮殿のような建物。エントランスはフォーマルないでたちの欧米人観光客でごった返している。俺はといえば汗で濡れたイージーパンツに街中で買った安物のキューバシャツ。ヘミングウェイも好んで着たキューバシャツはこの国の正装だそうで、辛うじてドレスコードを通過。入場料(約9000円)を支払う。ちょっと躊躇する額だが、かぶりつきの席を押さえるため奮発した。

 カメラ持ち込み料として約500円を追加徴収され憤慨するも、美女からの葉巻のプレゼントに心を浮き立たせる現金な俺。客席に着いて驚いた。なんと三方をステージに囲まれた巨大な屋外劇場で、収容人数も2000人は下らない。

 葉巻とダイキリを嗜んでいるとラテンの国には珍しく予定時間ピッタリに開演した。

 100人を超えるダンサーが、オーケストラが奏でるサルサやキューバの伝統音楽に合わせて激しく踊る。そのレベルの高さと規模に、六本木あたりのショーパブはおろか、浦安の夢の国のパレードすらかすんでしまうほどだ。

“配給”された「ハバナクラブ・オールド」の瓶をとっととカラにし、テンションも急上昇。反応の薄い欧米人を尻目に、ステージかぶりつきで踊っているとメインダンサーの女のコにステージに引っ張り上げられた。機内でDVDを観て、練習を積んだキューバンスタイルのステップで応酬すると、
「日本人? うまいわね」と熱い視線を投げかけられ調子に乗る俺。

 バーでの熟女との儚い思い出は、カリブ海に沈めてしまおう、と心に誓った夜だった。

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別名「星の下のパラダイス」と呼ばれるショーは3つのステージと1つのオーケストラピットがある屋外劇場。かつてはフランク・シナトラやナット・キングコールらが出演したことも。最も高い席で約9000円、安い席でも7000円というキューバの娯楽でも最高峰の場所。国が運営する「国営キャバレー」で、ダンサーは「公務員」となる

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ひと瓶をストレートで空けたラム酒の勢いでステージへ。革命の国で「大和魂」を見せたつもりだが、今改めて見ると緩みきった表情が少々恥ずかしい……

協力/レモンガス野村(フリーCMディレクター)

苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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