第百十夜【前編】

楽園ハバナの”世界最古のキャバレー”でステップを踏む!

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 バーで知り合った熟女を”すんでのところ”で若い輩にかっさらわれた俺。そんなとき思い出したのは、ヘミングウェイの小説『老人と海』だった。カジキとの死闘に勝った孤独な男。しかしその戦利品は曳航途中にサメに喰われる……。その舞台で男の哀しみを分かち合いたい。俺は機上の人になった。

 成田から18時間。キューバ・ハバナ空港に到着。旧市街へと向かうタクシーの窓から見える景色に仰天した。’55年製のキャデラック、フリートウッドが白煙をもうもうと吐きながら走り、幹線道路沿いに立つ看板には革命の志士チェ・ゲバラの姿や「人民は連帯を!」の文字が猛々しく躍る。これが21世紀の景色なのか?

「ハバナの夜は暗い」と藤原新也は書いたが、日が暮れると本当に街は真っ暗だ。19世紀後半に造られたコロニアル調の建物がそのまま残る旧市街は、100mにひとつ街灯があればいいほうで、すれ違う人の表情も判別できない。歌舞伎町のネオンに馴れきった俺は、懐中電灯で足元を照らさないと石畳に足を取られてしまうほどだ。

文豪が愛したバーでモヒートを堪能!

 まずはヘミングウェイが「モヒートはここで」と絶賛した店へ。文豪に倣いモヒートを流しこむ。日本では考えられない大量のミントと砂糖の甘みとラム酒の味が、体に絡みついた街の熱気と長旅の疲れをクールダウンしてくれた。

 今、この国の基幹産業は「観光」である。アメリカとは国交を断絶しているが、欧州やカナダなどから大挙して押し寄せる観光客から外貨を獲得しようと必死だ。”富めるものからは搾取する”という共産主義思想が徹底されている。キューバ人通貨と外国人通貨は分けられ、モノやサービスの値段も2つ存在する。外国人はキューバ人通貨をほとんど使えず、高い額を支払わされる。街中でメシを食えば日本円にして平気で1000円を超えるし、タクシーでちょい乗りしても日本の初乗り分は優に取られる。「競争」という概念も乏しいため、どこでも「協定価格」。値切ることはほとんど不可能だ。

 薄給の俺には懐具合が気になって仕方がない国だが、夜遊びは別。第二次世界大戦が勃発した’39年から営業し”世界最古のキャバレー”としてその名を轟かせる「トロピカーナ」に馳せ参じることに。

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森の中に突如現れた宮殿のような建物。これが創業72年、革命前から営業の老舗の風格だ!

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キャバレーのエントランスでは生バンドがお出迎え。伝統音楽”ソン”の響きが実に心地いい

協力/レモンガス野村(フリーCMディレクター)

苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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