武田真治、食生活は“ガン無視”でも肉体を維持できるワケ
俳優・サックスプレーヤーとして活躍する武田真治さんが先ごろ上梓した『優雅な肉体が最高の復讐である。』(幻冬舎)は、ユニークな一冊だ。同書の冒頭に並ぶ写真では、鋭利なまでに鍛え上げられた武田さんの肉体が披露されており、一見、よくある肉体自慢と過剰なストイックさに溢れたトレーニング本のように映るが、さにあらず。自身の経験を踏まえた率直な語り口で、武田さん独自のトレーニング観が紹介される一方、とくに30~40代の男性であれば共感せずにはいられない、肉体の変化や精神の揺れ動き、自意識と現実のズレ、仕事やプライベートでの葛藤などについても掘り下げて語られている。読み方次第では、自己啓発的な示唆を得ることもできるだろう。
そんな武田さんのインタビューを、全3回に渡って紹介していこう。
――いきなりですが、お酒はガンガン飲むし、シメのラーメンのスープは最後の一滴まで飲み干すって本当なんですか? 本の中でそんなくだりが出てきて驚きました。
武田:ええ、本当ですよ。正直、食生活にはぜんぜん気を使ってないです。ファストフードも大好き。マクドナルドを支えているのは僕なんじゃないかと思うくらい、日々、ハンバーガーを食べてます。今日の朝食だって、ピザとレッドブルですから。
――フィットネスを実践するには食べ物にも気を使うことが重要、というのが通説です。
武田:筋トレのことを考えて、ササミを食べたり、玉子は白身だけ食べたりとか、いろいろな方法が語られていますよね。もちろん、それを徹底できればそれなりに効果も期待できるのでしょう。でも、なかなか実践できないものです。
それに「これを飲んだり食べたりするだけで筋肉が付く」みたいなものが発明されたら、それこそノーベル賞ものだと思うんですよね。「このサプリメントを飲んだら苦労せず胸板が厚くなります」とか「この動物のこの内臓を食べたら、急にスタイルがよくなります」なんてものは、ハッキリ言って存在しないんです。
結局、どんなに栄養があるものを食べていようと、ジャンクフードを食べていようと、しっかり使った部位にしか栄養は補充されないのが、人間の身体の仕組み。だから「まずは身体を動かそう!」というのが僕の考え方なんですね。食事のことを細かく気にするのは、その後の話だと思う。好きな時間に好きなものを食べて、まずは心も身体も元気になること。それで、元気に身体を動かすこと。方法論とか効率なんて(最初はとくに)考えなくてもいいし、考えるにしても運動習慣をしっかりと身に付けてからで、僕はぜんぜんいいと思うんですよ。
――普段はどんな運動をしているんですか?
武田:ベンチプレスとジョギングだけです。自宅にあるトレーニング機器はベンチプレスのみ。マシンジムみたいな豪華設備が自宅にあっても、たぶん僕は使わないと思います。
僕、いつも思うんですけど、トレーニング雑誌で語られているような「全身を鍛えろ」みたいな鍛錬なんて、そうそうできませんよ。あれはアスリートとか、それを目指す人がやるようなこと。見ているだけでどんどんハードルが上がって、運動することが億劫になってしまいます。
ベンチプレスとジョギングだけやっていれば十分、というのが僕の持論。他の方法で全身をくまなく鍛えたいのだとしても、まずはその2つを習慣にしてからでも遅くないです。
――武田さんのキレキレの身体も、そうしてつくられたわけですよね?
武田:ええ。一時、マシンジムに通ったりしたこともありましたけど、いまは、その2つのトレーニングしか続けていないですね。あと、運動を始めるには基礎体力がどうしても必要になるので、最初は縄跳びから始めましたけど。縄跳び、おすすめですね。
――腹筋をしなくても、腹は6つに割れると。
武田:そうですね。走ることは想像以上に全身運動で、身体のいろいろなところを使います。腹回りも、ただ走っているだけで実はかなり捻ってますからね。
アフリカのサバンナにいるチーターが、腹筋しているのを見たことありますか? そういうことですよ。彼らはとくに余計なことをしなくても、身体はキュッと絞れてます。たぶん、それと同じ。走っていればいいんですよ。僕は、あえて腹筋を鍛えたりはしてません。
――最初は縄跳びから始めるといい、という理由は?
武田:長期間、まったく運動をしないで暮らしてきた人は、いきなりジョギングなどを始めるのは危険だと思っているからです。外を走っていると、どんどん景色がかわっていき、刻々と路面状況が変化して、信号など外部からの情報もたくさん入ってきます。走って酸欠になってくると、次第にアタマが働かなくなって、どうってことない段差でつまずいたり足を挫いたりしかねません。慣れないと、走るときの自分の歩幅ひとつも把握できなかったりしますからね。
だから、身体を徐々に運動に馴らしていく必要があるのですが、それには縄跳びがとても役立つんです。まずは100回、どんなに遅くてもいいから引っかからずに跳ぶのを目標にするのがおすすめ。
これはどこかで武井荘さんが指摘していたことで、僕も全面的に同意するのですが、自分の意識と、実際の身体の動きのズレを埋めることを常に意識しておくのが、スポーツの上達にはとても重要。意識のうえではこんなふうに動いているはずの自分の身体が、実はイメージどおりに動いていない、という状況はよく起こります。ずっと運動していなかったりすると、そのズレは自分の想像以上になっているはず。そんなズレを埋める作業を縄跳びで積んでから、ジョギングなどで外に出るほうがいいと思います。
――縄跳びなんて小学校以来やったことがない、という人も多そうです。
武田:つっかえることなく100回も跳ぶのって、最初はとても大変です。きっと何度もやり直すことになるから、連続して100回飛ぶには、結局500回くらい飛ぶことになるでしょう。自分の足もとに出現した細い紐をヒョイッと跳ぶことすらできない、というのは、運動するにはわりと不自由な状態だと思う。だから、せめてそれくらいはできるようになってから、ジョギングなど他の運動を始めるのをおすすめします。
それに走るという行為では、体重の3倍くらいの過重が足にかかるといいますから、やはりある程度、身体を慣らしてからのほうがいいです。
――そんな話を聞いてしまうと、まずは食事に気を使って、痩せることを優先したほうがいいかな、とも考えてしまいます。そうなると急に面倒くさくなって、運動するまで至らないというか。
武田:わかります。「結局どのタイミングで運動を始めれば安全で効果的なんだよ!」と思ってしまいますよね。それじゃ、ちょっと発想の転換をしてみましょうか。たとえば「痩せる」っていうのは、何かを成し遂げた後の副産物……要するにご褒美みたいなものなんです。「痩せる」といったご褒美を前提に運動を始めると、僕は絶対に失敗すると考えます。
「どうやったら痩せますか?」なんて尋ねられることも多いのだけど、的確には答えられないんですよね。僕は食べたいものを食べるし、飲みたいものを飲む。痩せることなんて一度も考えたことがないんですから、教えられません。そのかわり、どういう意識で運動に取り組めばいいかという問いには僕なりの答えがあります。走るなら、「速く走りたい」「長く走りたい」と思えばいいんです。それを強く、心から願いながら運動に取り組む。純粋に。そうして、以前よりも速く、もしくは長く走れるようになってみたら、結果的に痩せているものなんです。
――運動することに対する前提が違うというか、発想の順番が違うと?
武田:そのとおりです。最初からご褒美がもらえることありきの姿勢だと、たとえば痩せることを目的にしてトレーニングを始めてみたものの、程なく足を痛めて、結局運動から離れてしまう、みたいな状況にとかく陥りがち。ただ、「絶対に速く走れるようになりたい!」という思いが原動力だったら、ちょっとくらい足が痛くても「いや、これは速く走れるようになるために、必要な痛みなんだ」と受け入れられる。「絶対、自分は速く走るんだ」「もっと長い距離を走ってみたい」という素朴で率直な思い。そこに面白さを感じられるようになれば、トレーニングが続けられるはずです。
それに、日々のトレーニングでいつも身体のどこかが少し筋肉痛……くらいのほうがちょうどいいというか。元気よく運動をした結果としての筋肉痛と上手に付き合っていくのは、男のたしなみなんじゃないかな、とも思っているんです。
⇒【vol.2】『男こそつねに「筋肉痛」を味わう必要がある』に続く https://nikkan-spa.jp/730236
【武田真治/たけだ・しんじ】
1972年、北海道生まれ。俳優、ミュージシャン。89年、第2回ジュノン スーパーボーイコンテストでグランプリを獲得。翌年、テレビドラマで俳優デビュー。以来、映画、ドラマ、舞台で俳優として活躍する一方、「めちゃ×2イケてるッ!」などバラエティにも出演。また、サックスプレイヤーとしても多彩な活動を繰り広げ、さまざまなミュージシャンと共演している。
<取材・文/漆原直行>
『優雅な肉体が最高の復讐である。』 「肉体は人生の名刺である」 |
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