話題作『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督が明かす「映画としておもしろくなるテーマの選び方」
凄惨な連続保険金殺人事件を描いた映画『凶悪』は低予算ながら口コミから評判となり、異例のロングランヒットを記録。無名監督の長編デビュー作は近年珍しい大成功を収めた。あれから3年、気鋭の映画監督が次なるテーマに選んだのは警察スキャンダルだった――。故若松孝二の薫陶を受け、助監督として数々の映画制作に携わった“叩き上げ”が、作品にかける熱い思いから日本映画界の現況を縦横無尽に語り尽くす。
白石和彌の新作『日本で一番悪い奴ら』がやばい。話題作『凶悪』でもテーマのひとつであった、人間の善と悪や罪と罰を根底に描きながら、徹底的にエンターテインメントしているのだ。綾野剛演じる主人公もやばい。己の正義を貫くうちに闇に落ちるダーティヒーロー。北海道警察銃器取り締まり課の“エース”は、シャブの密売に手を染め、いい女を抱きまくる。正論だけの世の中に唾を吐き、啖呵を切るさまは胸がすく。しかし、そもそも映画とは「やばい」ものではなかったのか? しがらみだらけの現実とリンクしつつ、既成概念をぶっ壊す、ぶっとんだものだったはず。一躍、「邦画の未来を担う才能」と注目を集める、やばい異端児に迫った。
――『凶悪』に続き、今作もタイトルに「悪」の文字が使われています。悪に惹かれる理由があるのでしょうか?
白石:単純に悪だから映画のテーマとして足りるとは思ってないです。例えば、北九州の監禁殺人事件を「映画化してはどうですか?」と聞かれたけど、あの事件は、ただただ凄惨なだけで厳しいと思いました。
――事件物を映画化するオファーが多くあったとも聞いています。その中でこの原作を選んだ理由は?
白石:北海道出身なんで銃刀法違反とか覚醒剤の事件ってことはなんとなく知っていたんですが、読んでみると主人公は単なる犯罪者ではない生身の人間として描かれていた。そこには青春もあっただろうし、たぶん楽しそうにやっていたんじゃないかなって。これは映画として絶対におもしろくなると思いました。
――凄惨さだけではないものが、この原作にはあったと?
白石:凄惨な中にもユーモアやおかしみがないとエンタメとしては成立しません。結婚相手を選ぶようなところがあって、「こいつは可愛いから、まあやってもいいかな」くらいで選ぶと火傷します。だからいつも“足元注意”になるわけです(笑)。
――今回も足元注意でしたか?
白石:そうですね。本当に墓場まで一緒に行くつもりくらいでやらないと作品として力があるものにはならないと思って取り組みました。
――具体的におかしみとは?
白石:たとえば、『凶悪』でも、未決囚だった男が雑誌記者を呼び出して「俺、もうひとり殺してぇやつがいるんだ」と言う。その時点で笑っちゃうんですよ。「無理。今あなたは牢獄の中ですから」って(笑)。

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