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「俺と二人で旅がしたいの?」――46歳のバツイチおじさんは男前すぎるセリフを真顔で言い放った〈第27話〉

翌朝3時50分。 本当にコンコン!とドアを叩く音が聞こえた。 俺は10分前には準備をすべて終え、買ってきたコカコーラを飲んでいた。 実は緊張して、ほとんど寝れなかっただけだ。 中学生の初デートじゃないのに。 まぁ、中学生の頃、デートなんかしたことないけど。 リー「ごっつさーん。起きてますか~。行きますよ~」 俺「おう! 起きてるよ~。行こうか~」 瞬間的に猫なで声が出た。 キモい声を出した自分に少し引いた。 そして、3人でトゥクトゥクに乗り込み、年頃の中国人女子二人組と46歳のおじさんの3人は山登りに向かった。 4時45分、自然公園入場口に到着。 登山を目的とした観光客が列を作って並んでいた。 6割が白人で3割がスリランカ人、1割がアジア人という割合だ。 リーは、他の中国人の団体グループを見つけると、彼らに近寄り、中国語で何やら話し始めた。 リー「入場料、安くなったよ~」 どうやら彼らと交渉し、自分たちも団体の一員として割引料金でチケットを買ってきたようだ。 中国人コミュニティの団結力がスゴイのか? それともリーがしっかりしてるのか? とにかく彼女は、行動力があり、機転が利くことがわかった。 リーは俺が届けた白いスニーカーをはいていた。 もちろん、山登りにこのスニーカーがなかったら危険。 なんだか運命を感じた。しかし……。 リー「ごっつさん、山登りにビーチサンダルは危ないよ」 俺「しまった! 旅に出て半年以上サンダルで過ごしてたから……」 俺は致命的なミスを犯してしまった。 今から登山だというのに、おもいっきりビーサンをはいている。 リーの白いスニーカーに運命なんか感じてる場合ではなかった。 しかも、気づいたのは登山口……。 「2~3時間ぐらいのトレッキングだし、自然公園内だから大丈夫だろう」 自分にそう言い聞かせ、危険だがビーチサンダルでトレッキングをすることになった。 空はそろそろ夜明け。 雲ひとつない青みががった空は「今度の恋こそ上手くやれよ!」と応援してくれているように見えた。

スリランカの自然公園の入り口。珍しい野性の鹿が現れた

しかし、登山道は思ったよりハードだった。 公園だと思っていたそこは、iPhoneアプリで標高を測ると2000メートルを超えていた。 空気も少し薄い。 途中からゴロゴロと岩が転がる崖道になった。 リー「ごっつさ~ん。サンダル気をつけて下さいね~」 リーは運動神経が良いのかピョンピョンとジャンプをして岩道を登っていく。まるでバンビのような跳躍力。聞けば、地元の陸上大会で100メートルで優勝した経験があるそうだ。一方、俺はというとリーについていくのがやっとだった。 ごっつ「うわっ! またサンダルの鼻緒が取れた!」 俺がリーのように軽やかに登山ができない理由――。 それは、たまに壊れるサンダルもでかいが、46歳という歳がでかい。 大自然の中に解き放たれると、人間もただの動物だと思い知らされてしまう。 ティンティン「待って下さ~い」 彼女は46歳のサンダルおじさんよりも山登りが苦手なようだった。 途中、絶景の滝の下で休憩をした。 俺「疲れたー」 リー「私、喉が渇いちゃった」 俺「お水、全部飲んじゃったよ」 リー「大丈夫。そこにあるお水飲むから」 そう言うとリーは川の水をすくい、それを飲んだ。 リー「冷たくておいしい~。ごっつさんも飲んだら?」 俺「え、いい。海外で自然水飲んでお腹壊すと怖いから。大丈夫?」 リー「大丈夫よ。私が育った中国の田舎はここと同じくらいの大自然で、小さい時から川の水をすくって飲んでたの」 やはりリーは野生動物としての能力が高い。

リーはここの池の水をすくって飲んだ

その後、3人はゴツゴツした岩をジャンプしながら3時間ほど山登りを続けた。 当初の往復3時間の予定は大幅に狂っていた。 俺がサンダルに注意をしながら歩いていたので、全体のペースが落ちてしまったのかもしれない。 その時点で、俺はもうクッタクタだった。 「きっと靴をはいていても、リーのスピードについて行くことはできなかっただろうな」 46歳のおじさんが27歳の女の子とガチで付き合うと、体力的な差を感じるんだろうな、と思った(やらしい意味も含めて)。
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なんとか山頂に到着
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