“女帝”ブル中野にとって地球はちいさすぎた――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第192回(1995年)
ブル、というよりも中野恵子はその後、アメリカでグリーンカード(永住権)を取得してフロリダ州オーランドに在住。ブル自身が“もうひとつの夢”と語っていたプロゴルファーへの転向は、公認ライセンスを持つレッスン・インストラクターという形で実現した。「もう日本には帰ってくるつもりはないらしい」「中野さんはもうだれとも会わないらしい」というウワサがまことしやかに流れた。
どうやら、ブルは“ブル中野Bull Nakano”がどれくらいビッグなスーパースターであったかをまったくといっていいほど意識していなかった。プロレスから離れていた約10年間、テレビでもほとんどプロレスを観ていなかったという。
いちどはアメリカに永住することを決心していたブルは、2010年(平成22年)2月に結婚して、なんの前ぶれもなく日本に帰ってきて、中野区中野に『中野のぶるちゃん』というお店をオープンした。現在の本名は青木恵子さんだ。
ブルはようやく引退興行をする気になって、10カウントの引退セレモニーでリングのまんなかに立つために、体つきだけは半年がかりでかつての“ブル中野”のそれ――体重を100キロに増量――に戻し、2012年(平成24年)1月、正式に引退してリングを降りた。「ブル中野の試合はできないから」という理由で、あえて試合はやらなかった。
JR中野駅と東京メトロ東西線・中野駅北口から徒歩5分の『中野のぶるちゃん』に行くと、ほんとうにブル中野に会える。カウンターは左右2列で、そのまんなかにスタッフが立っているドーナツ型の店内は、居酒屋よりもちょっとお洒落で、バーとしてはやや照明が明るい。やっぱりといえばやっぱり、女子プロレス各団体の興行ポスターが壁に貼ってある。
全盛期のブルのイメージを頭に描いていると、そこに立っている背の高いママさんがブル中野だということに気がつかないかもしれない。もちろん、現役時代のようなメイクはしていないし、いまはすっかりスリムになっている。ブルは自分が“ブル中野”だということにとことん無頓着で、いつもフレンドリーでニコニコしているけれど、それでもやっぱり威厳がある。ブル中野は永遠にブル中野なのである――。
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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斎藤文彦
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