香山リカが「沖縄差別」を考えるため高江に向かった【中編】
そのうち、帽子に白い三本線が入った機動隊員の隊長が「アングル!」と叫ぶと、機動隊員たちが車輪止めを持っていっせいに走り出し、それぞれのクルマのタイヤにがっちりはめ込んだ(写真4)。乗っている人たちはみな「ちょっと待って」と降りて、「やめてください」「どうしてそんなことするんですか」などと抗議するが、誰も答えない。それとは別に、クルマから降りた人全員の前にそれぞれ機動隊員が配置された。私の前にも、まだ20代に見える細身の隊員がずっと立っていて、少しでも歩くと影のようにくっついてくる。「どうして止められているのですか?」「いつまでここにいなければならないんですか?」などと質問しても、目さえあわせてもらえない(写真5)。
しかも、そのあたりは携帯電話の電波が届かない場所で、N1裏テントにいるはずの弁護士などにも連絡が取れない。ここに止められているのが任意なのか義務なのかもわからず、まわりの人たちも“担当”の機動隊員にそれぞれきいているが、完全無視か、「わかりません」「このままお待ちください」といった答えが返ってくるか。「なぜここにいなければならないのか、それはあとどれくらいの時間続くのか」も知らされないまま、時間だけがどんどん過ぎていく。
情けないことにここまで理不尽に行動の自由を制圧されると、すっかり思考力が停止してしまう。私はしばらくの間、茫然とその場に立っていた。30分、1時間と時間が経過しても状況が変わらない。「東京に仕事の連絡を入れなきゃ」「今日、飛行機に乗れるだろうか」などといった考えがときどき頭に浮かんでくるのだが、次第に暑くなってきたこともあってすぐに脳裏から消えて行く。この状況を帰京後、知人たちに伝えたら「どうして怒らなかったの?」「警察法に照らし合わせてもこれはおかしい、と理屈を突きつければよかったじゃない」などと言われたのだが、そういう状況下では感情も理性もフリーズすることが期せずしてわかった。
まわりで同じように拘束されている人の中には、70代と思われる女性や学生と思われる女性もおり、「トイレに行きたい」「体調が悪い」と訴えているが、とにかく「待ってください」の一点張りで移動はいっさい許されなかった。何度も「トイレ」を訴えた女性には、ようやく「付き添いの上、歩いて行くなら」という“許可”が出たが、そこからトイレがある場所まではどう考えても数キロ。女性は耐えかねて「そのあたりにしてもいいですか」と言ったが、それも「やめてください」と止められていた(写真6)。
そして10時すぎ、ついに道の向こうから砂利を積んだトラックが10台の車列を組んでやって来た。これを通過させるために、私たちは自由を奪われているのだ。クルマの横に立たされ疲れきっていた人たちは、力を振り絞って「建設工事反対!」「オスプレイはいらない!」などとトラックに向かって叫んでいるが、トラックの運転手はこちらに一瞥もくれることなく、悠然と通り過ぎて行く。圧倒的な力の差だ。自分の無力さに涙が出そうになる……(写真7)。(続く)
文・写真提供/香山リカ
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