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「虹の根本にある素敵なもの」――爪切男のタクシー×ハンター【第四話】

「運転手さん、私がもし罪を犯しそうになったらどうしたらいいですか?」 「……はい?」 「私は心が弱いので、いつか罪を犯しそうで不安なんです」 「……なるほど」 「人生の先輩としてひとつお願いします」  長い沈黙の後運転手は言った。 「フィリピンパブに行くことですかね……私、本当大好きなもんでね……」  モンゴル人に似ていると言われた日に、フィリピンパブに行けと言われた私はいったいどこの国に向かえばいいのだろう。そんな私の気持ちを無視して運転手は言葉を続けた。 「あとは虹を見ることをお勧めしますね。心が洗われますよ」 「虹ですか? 確かに綺麗ですけどね」 「虹の根元には至福の喜びがあるって言葉があるんですよ」 「聞いたことありますね」 「だからね、私は虹の根元には自分の大好きな物があるって考えるんですよ」 「というと?」 「私の場合フィリピンパブですね」 「……片方の根元がフィリピンパブならもう片方の根元には何があるんですか?」 「フィリピンパブです」 「つまり、フィリピンパブとフィリピンパブを繋いで虹がかかっているんですね」 「そうです。自分の好きな物と好きな物をつないで虹がかかってるのって素敵じゃないですか? 私は仕事中に虹を見たら、そう思って元気を出してますよ」 「虹は自分の好きな物と好きな物を繋いでかかる素敵な橋」――私の人生経験の少なさからフィリピンパブの良さは存じ上げないが、その考え方は確かに素敵だなと思う。もし私が罪を犯しそうになった時は、空に虹がかかっていることを祈る。ただし、その虹の根元には私の愛するシーチキンがあるだろう。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

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