香山リカが「沖縄差別」を考えるため高江に向かった【後編】
私が帰った数日後、同じように道路を走っていた在日朝鮮人女性の劇団主宰者のクルマの前を警察車両が遮り、女性は公務執行妨害の疑いで逮捕された。女性はクルマから降りるように命じられ、道路に伏せるよう言われ手錠をかけられたという(裁判所が勾留請求を認めず翌々日には釈放)。本人はもちろん、まわりで見ていた人たちもたいへんなショックを受けた、とそこに居合わせた人から後日、聞いた。
何度も言うように、抗議の市民ができることは限られており、圧倒的な力の機動隊、防衛局の前にはほとんど無力である。この間も高江の工事は着々と進んでいる。
9月22日、ついに業を煮やした市民たちの中に、米軍北部訓練場の敷地内と思われる森の中に入って森林伐採の現場で抗議する人たちが出てきた。そこで防衛局員とせめぎ合いになり逮捕され、延長が認められていまだに勾留が続いている(10月13日現在)人もおり、今後も逮捕者が出るおそれがあるという。
そうでもしなければ、工事の進行を少しでも遅らせることができない。しかし、逮捕者続出となれば「抗議活動が過激すぎるのでは」と言われ世論を味方につけることはむずかしくなる。抗議の市民たちはいま、これまで以上にむずかしい局面に立たされているのだ。
ここで強調したいのは、日米安保下の基地のあり方、といった大局的な問題ではない。
ここまで書いてきたことを、どこか「遠い外国の話」のように感じながら読んできた人に、言いたいのである。あなたがネットで自由に読みたいものを読み、注文したいものを注文しているのも日本。そして、「自分たちが住んでいる地域を静かなままにして」と抗議するだけで機動隊員にゴボウ抜きで排除されたり、逮捕の危険にさらされたりする状況が続いたりしているのも、日本なのだ。
なぜ、「沖縄なら仕方ない」のか。
なぜ、「沖縄での紛争は日常茶飯事」なのか。
それを説明できるどんな理屈にかなった答えも、私たちは持ち合わせていないはずだ。
午前中は高江で拘束されていたのに、夕方には着いた那覇空港では、そこではいつものように観光帰りの家族連れやビジネスマンでにぎわっていた。ぼんやりとおみやげを見ていた私のスマホが鳴った。「高江からか」と緊張して出ると、向こうから明るい女性の声が聞こえてきた。
「セルジオ・ロッシのショップでございます。修理を依頼されたお靴ができ上がってきましたので、いつでもお越しください。お修理代のほう、ちょっとかさんでしまいまして2万円ほどになります」
セルジオ・ロッシというのはとても高級な靴で知られるイタリアのブランドで、私はそこでかなり前に6万円もする靴を購入した。たいへんに気に入っているのだがときどき傷がついたりして修理を依頼しなければならず、そのたびごとにまたかなりの代金になってしまうのだ。
「ありがとうございます。近々うかがいます」と答え、私は電話を切った。
そう、6万円の靴を買って2万円で修理をしてもらい、好きなときに取りに行けるのが、いまの日本なのだ。
一方で、機動隊員に「動かずに」と言われ、何時間でも制止されるのもこの日本でのできごとだ。
一方は完全に自由で、一方は完全に不自由。あたりまえのことだが、そのあいだをパスポートもビザもなしに一日のうちで行き来することができる。
それはやっぱり、とても異常なことなのではないだろうか。そのことだけは強く強く確信している(写真4)。
文・写真提供/香山リカ
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