香山リカが「沖縄差別」を考えるため高江に向かった【後編】
そのように3時間にも及ぶ拘束は、突然、終わりを迎えた。
道の向こうから、高江の抗議活動を見守るボランティア弁護団の中でももっとも活躍している若手・小口幸人弁護士が白いマイカーに乗って颯爽と現れ、現場の機動隊の隊長と交渉。私がいた場所から50メートルほど離れていたのだが、“担当”の機動隊員があとをついて来るのを感じつつ、できる限り近寄った。「これは任意なの?」「これから○○さんに法的根拠があってのことかをきいてみるから」などといったフレーズが聞こえてくる。
それからしばらくして小口弁護士が「N1裏テント(抗議の拠点のようになっている仮設テント)で確認してまた知らせに来ます」と言い残してその場を立ち去ると、まわりから「弁護士の先生は移動できてどうして私たちは動けないのですか」「いま先生も任意と言ってましたよね」といった抗議の声がこれまで以上に上がるようになった。そして、誰かが「道を戻るのもダメなの?」と言うと、あっさりと「戻るなら」と許可が出たのだ。
その時点で時計は11時を回っており、これから那覇に向かっても記者とのアポは間に合わないが、飛行機には乗れる。それにまず、秘書に電話を入れないと「朝から仕事の連絡がつかない」と困惑しているだろう。そこで期せずして3時間以上をともにすごすことになった“仲間”たちへのあいさつもそこそこに、同乗者に頼んで名護のバスターミナルまで急いで向かってもらうことにしたのだ。
名護ターミナルまで高江から1時間、そこからさらにバスで那覇まで1時間半。バスの中でターミナルの売店で買ったお弁当(写真3)を食べ、各所に連絡を取り、やっと人心地着いた。なんだか先ほどまでの「名前も顔も奪われた3時間」が夢のようだ。
――いや、しかし夢ではない。あれが高江の現実なんだ。
バスの中で、何度も自分にそう言い聞かせた。そして思った。
――それにしても、何もせずにただクルマを走らせていただけなのに、なぜ私たちはあそこで止められ、何時間にもわたって問答無用で動きを止められたのだろう。
おなかがいっぱいになり、エアコンのきいたバスの車内で落ち着いてくると次第に怒りがわいて来た。一連のできごとをツイートすると、「テロリスト予備軍なのだから警戒されるのは当然だ」「あなたがやったことが違法行為だからです。勤務先の大学に報告しました」といったリプライばかりが返ってきて、この拘束じたいの理不尽さを指摘する意見はごく一部であった。もちろん、多くの人たちがコメントなしでリツイートしてくれたところを見ると、「これはおかしい」と思っている人も少なくなかったに違いない。しかし、「なぜ沖縄でこんな人権侵害が?」と激しい怒りをあらわす人はあまり多くないのだ。
とはいえ、私も高江に来るまでは、座り込みのゴボウ抜きを見ても住民が集会を行っているテントに機動隊員が隊列を組んで入ってきて通過した、といったツイートを見ても、どこか「ああ、また沖縄でこんなことが起きている」としか思わずにやりすごしそうになったことを、正直に記しておこう。
そこで「これはたいへんなことだ。沖縄の人たちだけがたいへんな苦労を強いられている」と思うためには、自分に何度も「もしこれが東京だったらどう? 昨年、SEALDsが呼びかけた集会のど真ん中を機動隊員が突っ切っていったとしたら?」などと言い聞かせては確認しなければならなかった。おそらく私の中にも、どこかで「沖縄は別」「沖縄だから仕方ない」という構造的な沖縄への差別意識が根付いていたのだろう。それは「おかしいこと」と本当の意味で気づくためには、自分が不当に何時間にもわたって拘束され、人間扱いもされない、という経験を身をもってするしかなかったとは、少々情けない。
このように私の短い高江での滞在は強烈な反省で終わり、私はまた東京の日常に戻ってきた。
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