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ネットを炎上させるのは「無職・引きこもり・バカ・暇人」ではない

 この国ではいつの頃からか、ワイドショーでコメディアンがモラルを語るようになった。そして、彼らを起用するメディアは無自覚に、社会の荒廃に加担しているのだ。 「テレビは本来、当事者がすでに社会的制裁を受けている事実や、炎上当事者への批判も多様な意見のひとつであることも報じるべきです。海外のニュース番組では、両論併記はもちろん、さまざまなアングルからの報道がなされているが、日本ではこうしたことはほとんどない……。今の日本のマスメディアの姿勢には危ないものを感じます」  ソース(取材源)やクレジット(引用)の明記、バイライン(署名)、コレクション(訂正)、そしてオプエド(反対意見の掲載)は、海外のメディアでは最低限の原則であり、ジャーナリズムの鉄則だ。ところが日本では、大新聞でさえこの原則を守っていない……。  先頃、問題になったキュレーションメディアが象徴するように、ネットにはパクり記事が溢れ、社会に悪影響をもたらしている。一方、テレビを筆頭とするオールドメディアは、ネットの情報をそのまま報じ、ネット同様に炎上を闇雲に叩いているに過ぎないのに、どこかでネットを見下している。こうした日本特有の構造が、炎上を誘発しているのではないか。 「日本では表現の自由が保障されているが、炎上は自由な言論を萎縮させる……。これまで表現の自由を脅かすのは政府による規制と考えられていたが、炎上は『このテーマは燃えやすいのでやめておこう』と、大衆が自主規制に向かう。問題なのは、大衆による規制は政府のそれより非常に厳しい点です。いくらなんでも、政府が『SNSでこのテーマは語ってはならない』などと命じませんからね。集団的自衛権や靖国問題など、ネットで語っていけないことはないが、現実には避ける人が多いし、メンタルが強い人でないと語れないような言論空間はおかしい。炎上による社会的コストは、非常に大きいのです」  山口氏が学問的にネット炎上の実態を詳らかにしたことで、その問題点が明らかになってきた。彼が利用した手法は、GDPの算出にも使われる計量経済学だった。 「計量経済学という手法を実社会の近くで使いたいのです。確かに、GDP算出は有意義な活動ですが、実のところ、私はほとんど関心がない。特に、数式を構築する理論家が多い日本の学界では、まぁ、珍しいですね(苦笑)。もちろん、数式の構築に価値はあるけど、私のように実社会で身近に起きている現象に特化した研究にも価値があると思う。私は好きなことを研究したいだけなんですよ(笑)」  日本の学者には、専門性には長けているが、象牙の塔に閉じこもっているイメージが付き纏う。山口はそれを是としないらしい。 「特に、人文系の学者が、学者はこうあるべき、論文はこれが最高……といったことを主とするのには違和感を覚えます。世の中に発信して、議論が喚起されるほうがよほど価値があると思う。学者向けの論文の発信も大事ですが、論文なんて訳わからないじゃないですか(笑)。私自身、学生の頃、『なぜ、難しいことを難しいまま終わらせるのだろう』と思っていましたから。それを噛み砕いて、社会に伝えることも重要と思っています」  社会へのアウトプットこそが、学者の使命と考える山口は、プライベートでは漫画やアニメ、ゲームを愛するオタクの横顔を併せ持つ。 「仕事でも、趣味でも、自分の好きなことをやるのが私の鉄則。だから、好きな研究も好きなテーマでやる。そのなかで、オタク趣味も自ずと研究テーマに入ってくる(笑)。オタが今に繋がっているわけですね」  オタクはリアルな世界から距離を置き、自分の趣味に閉じこもる存在…….。そんなステロタイプな見方はもはや過去のものだということが、山口氏の活動から窺い知れる。日本ではユニークな存在の若き学者は、次の研究テーマに何を選ぶのだろうか。 ※週刊SPA!上杉隆連載「革命前夜のトリスタたち」より 上杉隆(うえすぎ・たかし)●ミドルメディアカンパニー「NO BORDER」代表取締役。メディア・アナリスト。一般社団法人「日本ゴルフ改革会議」事務局長。『偽悪者 ~トリックスターが日本を変える~』(扶桑社)、新著『誰が「都政」を殺したか?』(SBクリエイティブ)が好評発売中。「ニューズ・オプエド」が好評放送中!
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偽悪者 ~トリックスターが日本を変える~

最初に何かをやり始めた者は、この国ではいつも決まって叩かれる――

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