香山リカ、沖縄基地反対運動リーダーらの初公判を傍聴する
そして最後に罪状認否を行った添田さんは、「私は起訴状にあるようなことはいっさいしていませんし、共謀の事実もありません」とだけ短く述べ、担当弁護士は「防衛局員は傷は負っていない。よって添田さんは無罪です」と主張した。
それから、検察側そして弁護側の冒頭陳述と移ったのだが、個人的にちょっと驚いたことがある。それは、検事が添田さんのことを「添田被告はレイシストへの抗議・妨害活動を行う男組の組長として組員を率いて活動し」などと説明したことだ。
私は、添田さんやそのまわりの人たちから、「男組」は一度、解散して2016年に再結成しのだが、その後はLINEのグループ名のようなものだ、と聞いていたし実際にそうだと思っていたからだ。初期の「男組」には役割分担もあったらしいが、現在は誰がリーダーとか二番手といった決まりもないそうだ。
だから、検事がものものしい口調で繰り返す「組長」「組員」という単語に、「いや、いまはそんなにカッチリした組織なんかじゃないのでは」といささかビックリしたのだ。検察の調書というのはこんな感じで作られていくのだろうか……。
弁護士側の冒頭陳述、添田さんの主任弁護士は、結論をこう締めくくった。
「レイシスト団体に対する反対活動を行う団体のリーダー的存在だった添田さんは、45年間の多くの国民が無関心を装う『沖縄への差別』があることは許せない、と現場に駆けつけて確認し、記録しようとした。そしてその現場にいたというだけで、5ヶ月以上も身柄を拘束されている。影響力の大きい人間が狙い撃ちされたのだ。裁判官は、このことを公務執行妨害の有無といった問題に矮小化しないでほしい。
もしこの市民の抵抗の最後の手段が禁じられたら、日本の至るところで人々は弾圧を恐れて何も言えなくなる。裁判官には、木を見るのではなく森を見てほしい」
私自身、沖縄の問題に強く関心を持つようになったのは、この「沖縄だけに基地が集中しているのに、多くの人が知らんぷりをしている」という“見えない差別”に気づいたからだ。この弁護士が訴えているのも、単に「添田さんを救ってくれ」ということではなく、沖縄が被っている「構造的差別」の問題なのだ。
その後、「ブロック積み」の事件について審議されることになり、それには関係していない添田さんは退廷することになった。その時点で、すでに開廷からおよそ1時間半が経過していた。ここが裁判のひとつのクライマックスだった。
両隣の警官に促されて立ち上がった添田さんの両手に再び手錠がかけられ、腰ひもがゆわえつけられる。その様子を見守る山城さんの顔がゆがみ、目がみるみるうちに真っ赤になって行く。添田さんもそれに気づき、うつむいて嗚咽を漏らし始めた。
傍聴席からは「釈放しろ!」「がんばれ!」といった声が飛び、また裁判官があわてて「発言はやめてください」と制した。添田さんは視線を落としたまま、ドアの向こうに消えて行った。
それから検察が「ブロック積み」に関する証拠の映像を1時間近くにわたって出したのだが、正直言ってそれが本当にしんどかった。
それは、映像が暴力的だったからではない。その逆で、「青空の下、座り込みをする人たち」「その下に一部だけ見えるブロック」「メガホンでその人たちを励ましたり歌ったりする山城さん」などの映像は、こう言っては不謹慎だがなんとなくのどかな印象さえあり、罪状認否や冒頭陳述の際の法廷の張り詰めた空気もなんとなく弛緩したところで、裁判官が今後の日程を読み上げて双方に確認を求めて閉廷となった。
手錠をかけられて退廷する山城さんに、ひときわ大きな拍手が送られる。裁判官が制止しても「がんばれ!」というかけ声は途切れなかった。
裁判のあと弁護士は山城さん、添田さんの保釈を再度、申請した。
そして、数日前までは家族の面会も許されなかった山城さんは、18日夜に保釈となった。
添田さんは、いまだに勾留が続いている。ネットでは「添田被告は前科持ちで執行猶予もついているから保釈されないんだ」といった書き込みもあるが、先ほども述べたように執行猶予期間はもう明けている。また、裁判所が弁護士に説明したところによると、保釈不許可は「前科」などとは関係なく、証拠の整理がまだ終わっていないから、という検察側の理由によるものらしい。
接見の許可不許可、保釈の基準などもよくわからないものなのだな、と思った。
今後、あるときは3人合同で、あるときは山城さんだけ、添田さんだけ、と分離され、裁判が進められていくようだ。法廷では「力づくで機動隊の業務を妨害しているところ」や「防衛局員を殴りつけているところ」といった何か決定的な証拠が出てくるのだろうか。判決はいつ頃、どういうものになるのだろうか。
また、添田さんの保釈はいつになるのだろうか。
そして、その間も辺野古基地の建設は進められるのだろうか……。
抽選に再度、当たるとはあまり考えられないが、乗りかかった舟というか、今後もできるだけ那覇に足を運び、この目で裁判の行方を見守りたいと思っている。
「ずいぶん反対派に肩入れしているんだな」という声もあるかもしれないが、そういう人に「これだけは言いたい」ということがある。
それは、「今はこれが、独自の歴史や背景を持った沖縄で起きている“特殊なできごと”に見えているかもしれませんが、もしかするとこれから全国で起きることの予行演習なのかもしれませんよ」ということだ。
あなたの住んでいる町に新たな原発が作られることになり、「ちょっと! そんなのやめてくださいよ!」と住民仲間と声をあげたら、いつのまにか拘置所に入れられ、弁護士以外、誰とも会うことを禁じられたまま半年、1年の月日が流れる……。これは決して悲観的な悪夢ではなく、この同じ日本の中ですでに起きていることなのだ。
【訂正文】
記事掲載時、「第1の事件」の公判対象に稲葉博様のお名前を加えておりましたが、これは間違いでした。お詫びして、訂正・削除いたします。
【訂正文以上】
文・写真/香山リカ
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