2.5次元ミュージカルの元祖が語るブームの理由
漫画やアニメを舞台化した「2.5次元ミュージカル」の勢いが凄いことになっている。舞台に興味のない人でも、’00年代に一世を風靡した「テニミュ」ことミュージカル『テニスの王子様』の名は、一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、テニミュが開幕したのは2003年。「ブームはとっくに沈静化したのでは?」と思いきや、まったく逆の現象が起こっているのだ。
年間の観客動員数は2010年以降、飛躍的に上昇し、今ではテニミュ全盛期を大幅に上回る約130万人。公演タイトルは120作品を超える。もはやライブ・エンターテイメント市場において確固たる市民権を確立したといっていい。なぜ、ここまで急速に浸透・成長したのか? テニミュの生みの親である舞台プロデューサーの片岡義朗氏に話を聞いた。
――テニミュ以前にも『聖闘士星矢』や『セーラームーン』など、昔から2.5次元ミュージカルはありましたが、ここまでのブームにはなっていません。違いは何でしょう?
片岡:まず、2.5次元のベースとなる漫画・アニメ市場の成熟度の違いが大きい。『聖闘士星矢』や『セーラームーン』の時代のファン層の中心は、やっぱり小中学生のキッズだったんです。彼らに舞台は敷居が高いし、チケット代も出せない。結局『聖闘士星矢』の観客は、主演のSMAPファンが多くを占めることになりました。しかし、漫画・アニメ市場が成熟し、そのファン層が20代~30代まで拡大したことで、原作ファンがそのまま舞台に足を運べる環境が出来上がったのです。
――漫画・アニメファンの年齢層が上がり、8000円程度するミュージカルのチケット代を払える経済力がついたと。
片岡:テニミュ初演時はチケット代を5600円まで抑えたのですが、それでもジャンプ編集部から「3500円にならないか」と言われたほど。それくらい、かつての漫画読者の中心年齢層は低かった。しかし、蓋を開けてみればテニミュの観客は20代半ばが中心で、17歳以下の学生はほとんどいません。彼らは特にミュージカルファンという訳でもなく、85%が初観劇。つまり、20代の原作ファンから大きな支持を集めたのです。もし仮に原作のファンが小中高生ばかりだったら、ヒットはあり得なかったでしょうね。
――ただ、20代の社会人ならば他にも余暇の選択肢はあります。「2.5次元ミュージカル」ならではの魅力とは何でしょう?
片岡:それもひとえに、原作である漫画・アニメの独創性に尽きますね。今は市場の成熟とともに大人も楽しめる作品が増え、あらゆる嗜好をカバーした百花繚乱の様相を呈しています。なかでも、ヒット作は必ず“時代の旬”を捉えている。たとえば『テニスの王子様』には「努力と根性を感じさせない、爽やかなスポーツヒーロー」という、従来のスポ根の常識を覆す新鮮さがあった。このように世界的にも見ても、日本の漫画・アニメほど発想が自由で多様な文化はありません。『デスノート』や『進撃の巨人』などは、「漫画・アニメは子供のもの」という既成概念がある欧米社会では許されないアイディアでしょう。
つまり、日本の漫画・アニメが多様で時代を反映したアイディアを生み出す限りにおいて、2.5次元ミュージカルは常に新鮮で旬な舞台を作り出すことができる。その点、過去の名作の再演ばかりで停滞気味な演劇界の風潮とは対極の存在といえます。
2.5次元ミュージカルを支える30代の原作ファン層
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