世界を旅して怪魚を釣る…盗難、マラリア、集中治療室に運ばれても「面白い」
しかし、その後も旅の予定が詰まっていた。
「コンゴから帰国した翌週からオーストラリアへ1週間、そして立て続けにテレビのロケでイランへ釣りに行かないといけなかったんです。マラリアという感染症は、感染(蚊に噛まれた時)から発症まで、しばらく時差があるんですけど、まずオーストラリア滞在中に発症してしまいまして。集中治療病院に入れられて、その際、血圧が上で72まで下がった時は、看護婦さんがやたら焦ってました。日本でいう、危篤状態だったんじゃないかと思います」
その後、命からがら帰国したが、10日後からはイランへの撮影予定が入っていた。
「北部のジャングル地域に行ったんですが、マラリアの症例を多く持つオーストラリアで『再発危険性なし』と診断されて帰国、日本の医療機関でも『大丈夫』と言われたのに……イランにいるときに再びザワッと寒気がして。イランの地方病院では、悪性大腸菌だと。これまでの経験上、そんなことはないと。血液検査もしてくれないようなレベルの低い病院で……案の定、またマラリアでした」
しかし、釣り人は小塚氏ひとり。
「顔が濡れたアンパンマンってこんな感じなんだろなー、なんて思いながらなんとかロケを終えました。釣り場近くの診療所に担ぎ込まれた時には、血圧が上で76しかなかったけど、(出演者として)僕しか釣る人がいなかったので(笑)。首都まで戻って大きな病院に駆け込むと、またも集中治療室に連れて行かれましたね……1か月間で2回、さすがにマラリアには飽きましたね。ハハハ」
襲いかかったトラブルはそれだけではない。翌朝ベッドで目覚めてみると……。
「胸元にiPhoneを置いていたはずなんですが、それが起きたら無いんですよ。首都の大病院の集中治療室なのに、まさかの盗難。そこには病院関係者しか入れないはずなので、犯人は大体わかりますよね(笑)」
さらに、小塚氏のとんでもないエピソードは続く。
「1週間ぐらいして、ようやく立ち上がれるようになり、トイレにカラダを洗いに行ったんですよ。そしたら、看護師らしき男性が付いてきちゃいまして。スッポンポンにさせられて、そこで『チン毛とワキ毛を剃りましょう、カラダに悪いから』って、もう意味がわからないですよね。その男性は体毛モシャモシャなのに。真顔で迫ってくるんですけど、『これは僕の宗教だから毛は剃れない』ってウソをついて逃れました」
こうして男としての貞操を守った小塚氏だったが……。
「部屋に戻ってみると、今度は僕のサンダルが無くなっていて。クロックスの個性的なデザインだからすぐにわかるんですけど、そのサンダルを履いたガンジーみたいなおじいちゃんが点滴をしながらパカパカと歩いている姿を見たときには、さすがに言葉を失いましたね(笑)」
このような経験をしながらも「ツラかったというより、めっちゃ面白かったです」と無邪気に笑う小塚氏の表情が印象的だった。
こうして独自の道を突き進んできた小塚氏。その動向が様々なメディアにも取りあげられてきた。だが、意外にも釣り業界のなかでは異端、アウトローと呼ばれることも多いのだとか。
「釣り番組とか釣り専門の出版社から本を出すのが釣り師としては王道や本格派。僕には大した腕もなく、釣り業界のなかでは全然すごい人じゃないんですよ」
とはいえ、それでも怪魚釣りを続けてきたことには、ひとつの確信があった。
「僕は、釣り業界のなかではマイナーなことをやってきました。でも裏の裏。一般からすれば、いつかメジャーになる日が来ると直感で信じていました。つまり、“裏の裏は表”なんです。今回のSPA!やフジテレビにも出てみたり、まるで一発屋の芸人みたいですが。それが案外、居心地良かったりもするんですけどね(笑)」
<取材・文/藤井敦年>明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
釣り業界では異端でも「裏の裏は、表である」
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