野球漫画の常識を打ち砕いた問題作『タッチ』が野球少年に教えてくれたこと
その双子の弟に成り代わったのが、ズボラで飄々とした佇まいの兄・達也――そう。たとえ、裏でどんなに「努力」していようが、表ではそれを毛嫌いし、「飄々」と男友達には人気があって、女子にもモテる、典型的なラブコメヒーローの方程式が、バブルの予感に浮かれる青少年たちの感性にタイミングよく、しっくりとハマったのである。また、それは同時に「熱血」が「恋愛」にひれ伏した瞬間でもあった。
実のところ、あだち充は「野球にはそう詳しくもなかった」との説がある。この逸話が少なからず本当ならば、そんなヒトがまがいなりにも26巻に及ぶ長編野球漫画を描き上げてしまった事実に、もっと驚愕すべきだろう。最小限まで削ぎ落とされたセリフまわしに、最大限まで空間を生かした大胆なコマ運び、トゲトゲしさを皆無とする丸いタッチの線を武器に、そこそこの野球知識だけで20世紀の漫画界に一つの革命を起こしたのだから。
そして、「ながら」で野球を描いた漫画を、「ながら」で流し見しても(セリフが少なくコマがデカイので)あっという間に読み終えることができる、しかも、それなりに感動できる――そんな「雰囲気重視」の思考こそが、あのころのモテを制するマストスタイルとなったのだ。
一方、『サンデー』系の台頭によって窮地へと追い込まれた、このころの『少年ジャンプ』であるが、1982年に『キックオフ』(作画/ちば拓)という『タッチ』のサッカー版、露骨な二番煎じを立ち上げてみたりと、あきらかなる迷走を繰り返していた。
しかし、その約1年後、ラブコメ路線に見切りをつけた、アツ(苦し)さの権化的作品『北斗の拳』がスタート。初心の「友情・努力・勝利」に戻り、『ドラゴンボール』や『スラムダンク』をたて続けに大ヒットさせ、世界最高発行部数を誇る印刷物へとのし上がっていったのはまだ少し先……90年代、バブルが弾けた後の話である。
文/山田ゴメス、撮影/山田耕司(本誌)
大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するライター兼コラムニスト&イラストレーターであり、「ネットニュースパトローラー(NNP)」の肩書きも併せ持つ。『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。保有資格は「HSP(ハイリー・センシテブ・パーソンズ)カウンセラー」「温泉マイスター」「合コンマスター」など
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