更新日:2022年10月05日 23:37
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潜在的な痴漢は10万人以上いる!? 痴漢撲滅を目指すのに必要なことは

痴漢されたいという歪んだ妄想と現実

潜在痴漢 痴漢として逮捕されれば大きな社会的制裁を受けるし、家族の絆にもヒビが入る。リスクを軽々と踏み越えてまで、なぜ彼らは犯行に走るのか。痴漢の心理に詳しい精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏によれば、痴漢には特有の歪んだ女性観があるという。 「例えば、『露出の多い服を着ている女性は性欲が強く、痴漢されたがっている』『車内で寝ていたり酔って前後不覚になったりして隙が多い女性は触られたがっている』『女性は男性から痴漢されることで性的満足を得るものだ』などと彼らは考えます」  痴漢されたのは女性の側に責任があり、男性には罪がない。日本社会に今も根付いている男尊女卑的な性差別文化を暴走させた発想だが、要は、性的幻想(ファンタジー)である。だが、痴漢たちは自分の行為を正当化するロジックが幻想であることを自覚しないままに、さらにそれを進化させ、こじらせていく。 「電車に座っている女子高生8人組を、男がじっと凝視していたとします。彼女たちは男の視線に気づいて別の車両に移動しますが、1人だけスマホに熱中していてそのまま座っているコがいました。このとき、痴漢は『俺がジロジロ舐め回すように見ていて気持ち悪いからみんなどこかにいってしまった』と考えます。この認識は正しい。ですが、残っている1人については、『このコだけは俺に痴漢されたくて残っているんだな』と本気で思ってしまう。そして実際に触って逮捕されてしまいます」  本人としては「OKと言ってたはずなのにどうして?」と納得できず逆ギレすることもあるという。

痴漢に走る前兆

 こうした人間を野放しにしておいては危険だと誰しも思うはず。だが斉藤氏によれば、痴漢を異形のモンスターのごとく特別な存在として捉えることは、痴漢撲滅を目指す上で適切ではないという。 「自分が痴漢なんてやるはずがないと思っている人でも、いつか突然痴漢をやってしまう可能性はあります。痴漢を見つけたら普段はストップさせる側だった人が、ある日を境に痴漢をやる側になったケースすらあります。痴漢の最も一般的な類型は、大卒で妻子のある働き盛りの会社員。奥さんが『痴漢さえしなければ、いい人なんです』と嘆くような、ごく普通の男性たちなんです」  すべての男性は、痴漢のリスクを内在しており、ささいなきっかけで痴漢行為にハマっていく可能性があるのだという。 「たとえ犯罪化していなくても、電車の揺れのドサクサにまぎれて肘や二の腕などで女性の体に接触するような潜在的な痴漢は実はたくさんいます。常習者の多くはまずこれを習慣的に繰り返し、次は手の甲で意図的に触る。ここで咎められなかったという成功体験を得ると、『意外と簡単にできる』ことを発見してしまいます。それを毎日やっているうちに刺激が足りなくなり、やがて手のひらで触るようにエスカレートしていきます」  満員電車に揺られていて、偶然女性の乳房の柔らかさに触れてしまった経験を持つ男性は少なくない。そこから本物の痴漢に堕ちていくプロセスは、誰にとっても他人事ではないと斉藤氏は言う。 「満員電車という匿名性の高い非日常的空間がまずあって、そこに、職場で不当に扱われたり適切な評価を受けられなかったり、家庭での存在意義を見いだせなくなるなどのストレスが加わることで、痴漢行為に踏み出してしまう。その前後には、行き場のない気持ちを紛らわせるため、自慰の回数が増える傾向があります。平均すると一日あたり2~4回、1週間では20回ほどに達する人もいます」  この異常な射精回数は、彼らの魂の哭き声かもしれない。
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痴漢を「性依存症という病気である」と捉える
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