更新日:2017年11月15日 14:40
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トランプ大統領が安倍首相を頼りにしている理由【評論家・江崎道朗】

北朝鮮有事に連動して尖閣占領も

国際情勢 もっとも課題もある。日本の防衛体制の不備、特に防衛費の不足だ。  帰国後、議論をした一人から電子メールで10月6日付「アジア・タイムズ」に載ったG・ニューシャム氏の原稿が送られてきた。海兵隊幹部や外交官を歴任した知日派である彼は、こう警鐘を鳴らしている(邦訳は海外ニュース翻訳情報局)。 「米国政府は日本の期待していることを明確に認識する必要がある。北朝鮮が東京にミサイル攻撃を行えば、米国は必ず激しい対応を行う。中国の侵略部隊が九州に上陸したら? 同じことだ。  しかし、北朝鮮のミサイルが五十マイルの沖合に落下した場合や、日本の田舎の住民のいない場所に落ちた場合はどうだろうか? あるいは、中国の漁民が尖閣に上陸して退去を拒否し、中国海軍がすぐ近くで日本に干渉するなと警告していたら? このようなぎりぎりの問題でも、日本は米国に武力の行使を含めて徹底的な支援を期待している」  北朝鮮有事に連動して尖閣諸島に国籍不明の漁民たちが上陸し、近くにいる中国の軍艦が日本に「干渉するな」と警告してきたら、日本は、アメリカはどうするのか。こうした微妙な問題について日米首脳はしっかりと詰めておかないと、中国にしてやられるぞと警告しているのだ。  それでなくともアメリカの政治家の大半は、極東の「島」のために米中が戦争をすることなどあり得ないと考えている。日本の領土なのだから、米軍などに頼らず、日本がしっかりと守るべきだということだ。  防衛に対する本気度は予算でわかる。予算は国家の意思なのだ。  トランプ政権は北朝鮮有事を念頭に前年比で約7兆円増の68兆円に増やす防衛予算を国会に提出、この7月27日、可決した。防衛予算を大幅に増額することで「このまま核開発を進めるならば北朝鮮を全面攻撃するぞ」と、その本気度を示したのだ。  ところが日本は昨年、防衛費は数千億円増やしただけで、その総額は僅か5兆数千億円に過ぎない。ミサイル防衛体制も尖閣防衛体制もさほど強化していない。このため、「日本は本気で自国を守るつもりがあるのか」と不信感を抱く米軍幹部もいる。  そこでニューシャム氏は、米軍の不信感を取り除くためにこう提案する。 「日本は防衛費をもっと増やすことで米国の完全な支援の見込みを増やし、米国と日本のすべての軍隊の間で協力関係を向上することができる」  日米同盟こそがアジアの平和を守る最大の公共財だ。その公共財を守るためには、憲法改正だけでなく、防衛費をせめて先進国並みのGDP比2%、つまり10兆円規模に増やすことが必要ではないのかと、ニューシャム氏は説いているのだ。こうした米軍側の議論を正確に理解すべきだ。  その上で「日本も自国を守るつもりがある」ことを予算で示すことが「国難突破解散」で、衆議院の3分の2(310議席)を上回る313議席を与えられた連立与党の責務であろう。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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