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伝説のイタリア産メタル・バンドSKYLARKはなぜ2ちゃんねらーから愛されたのか?

つまり「スカイラーク全部」とは何だったのか?

 SKYLARKは当初、輸入盤のなかから美味しいバンドを発掘して楽しむディープなメタラーから支持され、次に黎明期の2ちゃんねるHR/HM板に常駐するクサメタラーが、彼らの布教活動に勤しんだ。多くの固定ハンドル(コテハン)が「スカイラーク全部」と書き込んだ。当時、筆者もコテハンの一人で、おそらく何度かは「スカイラーク全部」と書き込んでいるはずだ(笑)。その意味するところは、「SKYLARKというバンド、そしてSKYLARKのアルバムは“全部”素晴らしい」というものであったが、同時にそれはネタでもあった。  それを裏付けるように、SKYLARKは、CLUB CITTA’や東京と大阪のCLUB QUATTRO、大阪RUIDOなどでヘッドライナーとして12年もの間ライブをたくさん行い、また、さまざまなチャートにも名を刻んだ。アルバム『The Last Gate』(2007年)は、HMV週間チャートのPOP ROCKで3位、総合で7位に食い込み、アルバム『Twilights of Sand』(2012年)は、Amazon週間チャートのROCKで1位、総合で12位を記録している。『Gate Of Hell』(1999年)、『Gate Of Heaven』(2000年)、『The Princess’ Day』(2001年)のアルバム3枚と、DVD 『The Live Gate』(2009年)は、『BURRN!』(シンコー・ミュージック・エンタテイメント)の輸入盤チャート1位またはTOP10にそれぞれ入っている。  だが、「スカイラーク全部」というのは、2ちゃんねらーメタラーにとっては、ネタでもあった。というのも、SKYLARKはあくまでもB級バンドだったのである。チープなサウンド、クサすぎる悶絶メロディ、男女いずれも微妙な歌唱力のヴォーカル、水着やコスプレ写真のトレカ、そして親日家で、「Mt. FUJI」という楽曲までやってしまったり。普通なら、そのようなB級バンドは、すぐ消えてしまうだろう。

抜群に美しい2代目ヴォーカリスト=キアラ嬢

 しかし彼らは、ほかのメタル・バンドと違ってネタの宝庫であり、インターネットでそれを肴に楽しむことができる特異なバンドだった。ネットの口コミによって、この手のシンフォニックメタルに興味がないスラッシャーやデスメタラーなどの2ちゃんねるメタラーも、SKYLARKのアルバムを聴いたのではないか。その結果、SKYLARKには「最高峰」と「無理」、両極端な評価が飛び交った。  2ちゃんねるのクサメタラーにとっては、「激臭」「ショボい」「勘弁して」などと言いながら聴くのがSKYLARKとの接し方であり、それができる者こそが、選ばれし勇者(ファン)だった。試練を乗り越えた勇者(ファン)の間には仲間意識が共有され、SKYLARKは孤高の存在=“神”となった。あの頃、「スカイラーク全部」は、宗教でもあったのだ。

洋楽メタルにおけるオタク・バンドのオリジネイターがSKYLARK

 そして、もうひとつの要素についても触れなければならない。オタクについてである。国内においては、ジャパメタ黎明期から、多くの国産メタル・バンドがアニソンを手がけて以降、オタクとメタルは常に近しい距離にあった。2000年代には、一般メディアでも、ヘヴィメタルをネタに扱うコンテンツが多々見られた。そして近年は、アイドルや女性声優までもヘヴィメタル・テイストの楽曲を歌うようになった。  しかし、洋楽メタル・シーンにおけるオタクとメタルの結びつきについては、SKYLARKの登場まで待たなければならなかった。エッディはインタビューのなかで、自身の楽曲のメロディに、日本のアニメの感じに似ているところがあることを述べた(前回記事参照)。あの頃の2ちゃんねるのHR/HM板には、オタクメタラーが常駐していたからこそ、アニソンの影響も見られるSKYLARKが好意的に評価され、そして盛り上がったという側面もあるだろう。  黎明期の2ちゃんねるにおいて、ネタバンドとして祀られ、オタクとメタルを結びつけた洋楽メタルにおけるオリジネイターのSKYLARKの功績は、オタク発祥国=日本のヘヴィメタル・アーティストが海外で評価されるようになった今こそ、振り返っておきたい。そして、オタクの人たちにもぜひ、SKYLARKのことを知っておいていただきたい。  インタビュー後、エッディは寿司を食べに、心斎橋の夜の街に消えていった……。
(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)
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ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  長らくジャパニーズメタルは、洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 国内では無視され、メタル・カーストでも最下層に押し込められてきた。メディアでは語られてこなかった暗黒の時代から現在の世界的ブームまでを論じる、初のジャパメタ文化論。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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