更新日:2019年08月01日 22:55
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「改憲ごっこ」は安倍政権の“信者”たちが勝手にやっていればいい<倉山満>

安倍自民党改憲案は、憲法が何なのかを、わかっていないのだ

 週刊SPA!の本連載でも過去に安倍自民党の9条改正案には反対だと明言した。現行の自衛隊法を憲法に格上げするだけだからだ。しかも、自民党で議論した際、この点に誰も気づかなかったと聞く。法律で自衛隊を認めているのに、憲法に書く意味は何なのか。たいていの人は答えられないが、中には「自衛官が勲章をもらえる」と真顔で主張する論者もいる。  一事が万事この調子で安倍自民党の改憲案は不真面目極まりないのだが、9条以外の3つの論点にも賛成できる点は何もない。  第一に、緊急事態条項。その内容は「大災害時に内閣は法律と同じ内容の政令を定めることができる」とする。大日本帝国憲法における枢密院の緊急勅令を猿真似しているのだろう。これに関して2つ指摘する。何のために参議院の緊急集会があるのか。今の憲法で枢密院を廃止する代わりに、その機能を参議院に持たせたのだから、活用すればいいだけだ。また、内閣が存立しえないような緊急事態の際は、どうするのか。帝国憲法では、最終的には天皇が危機を収拾した。安倍自民党改憲案では、内閣が健在であるとの前提しかない。  第二に、参議院の合区の解消。現在、徳島と高知、鳥取と島根は一県一議員の原則を守れず、合区となっている。議員定数を比例配分しているので、人口減少が著しい県からは議員を輩出できないのだ。それが嫌なら、人口減少に歯止めをかける政策を行えばよい。あるいは、人口減少著しい県は、統廃合すればいい。たとえば「南四国県」「出雲県」のように。さんざん市区町村では統廃合を進めてきたのだから、なぜ県ではやらないのか。憲法改正など、本末転倒である。  第三に、教育の無償化。安倍自民党案では、「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」となっている。これでも無駄に冗長な部分から抜粋したのだが、中身が何もない。本当に「無償化」したいのかもわからないし、努力目標にすぎない。  だったら、憲法の条文に何を言っているかわからない作文を書きこまなくても、予算を増やせばいいだけではないか。  以上、これでも簡単に述べて、そのすべてが致命的なのだが、キリがないので安倍自民党改憲案の根本的問題を一言で述べよう。  憲法が何なのかを、わかっていないのだ。  憲法とは、国家経営の根本法である。要するに「政治のルール」だ。国の政治とは、憲法で大原則を定め、国会が法律を作り、予算を決め、行政府が執行する。安倍自民党憲法案は、憲法・法律・予算・行政の4つの異なる次元の話が混乱しているのである。  改憲派の中には、「自衛隊を軍隊にしたい」と本気で願っている人もいる。哀れだ。逆に護憲派は「安倍内閣が自衛隊を軍隊にしようとしている」と怯えている。心配しすぎだ。  安倍自民党は憲法に「自衛隊」の3文字を書きこもうとしている。では、その瞬間、自衛隊は軍隊になるのか。現状の自衛隊はアメリカ軍楽隊より射撃訓練をさせてもらえないほど予算がない。法律は不備だらけで、軍隊の要件を満たしていない。たとえば、敵前逃亡をしても最高刑は懲役7年にすぎない。現に東日本大震災でも原発が怖くて逃げた自衛官は、懲戒解雇されただけだ。等々、今の自衛隊は、ないことだらけだ。名前を書きこんだだけで軍隊になるなら、いっそ「天皇はウルトラ警備隊を統帥す」とでも書けばどうだ。「地球防衛軍」でもいい。  改憲派は「憲法に平和と書けば平和になるのか」と護憲派をなじるが、「憲法に軍隊と書けば軍隊ができる」と考えている時点で、同じ穴のムジナではないのか。
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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