あおり殴打事件では別人を犯人扱い。ネットのデマ拡散の恐ろしさ
常磐道煽り運転事件は、恐るべき別現象をも生み出した。それはネット上でのデマ拡散である。
全国指名手配ののちに逮捕された宮崎文夫容疑者。その車に同乗していた女は喜本奈津子容疑者であるが、逮捕前はその氏名が公開されていなかった。
逮捕前日の8月17日、Twitterを始めとしたSNSでは、「同乗の女の本名はこれだ!」という情報が拡散されてしまった。もちろん、それは全くの偽情報であり、同乗の女とされた女性は宮崎容疑者とは一切関わりのない人物である。
あらぬ疑いをかけられたこの女性、ここでは仮にAさんとする。発端はAさんのInstagramでのアカウントを、宮崎容疑者がフォローしていたことにある。それを伝って、ネット上のいわゆる「特定班」と呼ばれる人々がAさんの容姿をチェックし、「同乗の女に似ている!」と結論付けてしまったのだ。
常磐道での暴行の際に喜本容疑者が身に着けていた帽子とサングラスが、Aさんのそれと似ているというのがその根拠である。たったそれだけで、AさんのInstagramは大炎上してしまった。本人への誹謗中傷も相次いだ。その後、Aさんは自身が経営する会社の公式サイトの中で声明を発表。被疑者がAさんであることを発信する者に対して法的措置を取るとした。これはTwitterの投稿をリツイートした者も含まれる。
「ネット上のデマ」が社会問題として認知され、それに対する民事訴訟での判決事例も数年前より明確なものとなっている。にもかかわらず、未だこのような事態が起こってしまうのだ。
なお、この常磐道あおり運転事件はもうひとつのデマがまとわりついていた。あおり運転の男の名は「金村竜一」だ、という内容である。
現時点の我々は、この男は宮崎文夫容疑者であることを知っている。しかし宮崎容疑者が指名手配される前、特にTwitterでは「犯人は金村竜一」というデマが広まったのだ。
この「金村竜一」は、先述のAさんとは違い架空の人物である。が、冷静に考えれば「金村竜一」などという名は決して珍しいものではない。全国のどこかにいる、同姓同名の金村竜一さんが濡れ衣を着せられてしまう可能性は大いにあった。
なお、Aさんに関するデマが拡散したのは、宮崎容疑者の氏名が公表されて「金村竜一」が偽情報だということが判明した直後である。ネットの恐ろしさを全く学習せず、デマからデマへ飛びついた者が一定数存在するということだ。
2017年に発生した東名高速道路あおり死亡事故。この際もネットでのデマ拡散が問題視された。この事故で逮捕された容疑者と苗字が同じというだけで、とある企業に誹謗中傷が殺到したのだ。「容疑者はこの会社の社長の息子」という偽情報が広がったためである。
もちろん、容疑者とこの会社は一切のつながりを持っていない。発端はインターネット掲示板5ちゃんねるでの投稿だ。「容疑者は実父の経営する会社に勤務している」とされ、Twitterにもそのデマが波及した。
この会社は、デマを拡散した8人に対して計880万円の損害賠償を請求する裁判を今年3月に起こしている。単純に考えればひとり当たり110万円だ。最終的な賠償金額についての言及はここでは控えるが、この裁判がひとつの基準になっていくことは間違いないだろう。「ネットでデマを拡散したら、どれだけの損害賠償を請求されるのか」という基準である。
「同乗の女」にされてしまった女性
「金村竜一」は架空の人物
「苗字が一緒」というだけで…
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