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競馬のG1・NHKマイルで家賃を払えるか? 穴馬に命運を託した結果…

競馬好きはG1前に馬券を聞いても優しく教えてくれる

 買ったのは日曜日の東京競馬場で11番目に開催されたNHKマイルカップという大きなレースだ。競馬のレースは1日に大体12レース開催され、11レース目が重賞と言ってその日の目玉であることが多い。勝っても負けても「もう1レースだけ」と思い至ってしまうのを手玉にとった悪質なレース構成だと思う。  インターネットを巡回して、結局最後は競馬に詳しい友人にLINEで 「穴馬を教えてくれ」  とメッセージを送った。  穴馬とは、一番人気ではないけど調子次第では良い順位につける可能性がある馬のことだ。穴という概念自体かなり適当だと思うが、万が一がある。それに彼は結構競馬が上手だった。今回は荒れるレースのようで、人気順に決まる可能性はそれほど高くないという。1万円を10万円近くまで増やすにはもってこいのレースじゃないか。  LINEのメッセージではラインベックという馬がいかにこのレースで才覚を発揮する可能性を有しているかを語っていたが、途中で読むのをやめた。これだけ書いてくれるならきっと本気で考えたんだろう。僕はその本気に乗りたい。下手の横好きで余計な知識が邪魔をする前に買ってしまいたかった。僕が買うのはLINEの彼であって、きっとラインベックではない。  とにかく10番人気のラインベックを買おう。  この馬の単勝に4,000円、さらに2、3着でも大きく当たるようにいくらかずつ賭けた。1着にならない場合は他の馬との組み合わせも込みで当てなければならなかったが、この馬さえくれば10万万近く勝てる買い方をした。頼むぞラインベック……。  今は新型コロナウイルスの影響で競馬場が空いていなかったのでネットで馬券を購入した。400円くらい余ったから自分の誕生日に絡んだ馬券を買う。こういう運否天賦のスパイスは博打の場では大切だ。視界の外から飛んでくる金ほど輝いて見えるものは無い。  中継を見ると馬が順番にゲートに吸い込まれていくところだった。ラインベックは9番のゼッケンをつけている。こう見るとラインベックが一番強い気がしてくる。人の予想に乗っかるような競馬素人はここでエンジンがかかる。  ラインベック、画面越しでもわかる。君の目は燃えているぜ。  NHKマイルカップがスタートする。ダサいラッパの音を追いかけるようにゲートが開き、目的も無く馬たちが走り出した。  スタート直後の順位がそのままゴールラインを通ることがほとんど無い競馬は、最後まで見応えがある。  よく噛まないな、と思いながら実況を聞く。僕は基本的に競馬に詳しくないので他の馬の名前は全部呪文にしか聞こえなかった。レシステンシアとラウダシオンが連呼される。ラインベックの名前は一度しか出てこなかったが、9のゼッケンをつけた馬は馬群の真ん中にいた。まだ焦る時ではない。  最終コーナーを曲がった後に驚異的な伸びを見せる馬もいる。経過時間は1分。まだ焦る時ではない。1kmを1分で走るなんて馬はやっぱりすごいな、と思いながら画面を見る。焦ると博打の神に見捨てられる気がして澄ました顔をしていたが、握った手の中の湿度は100%を超えていた。ラストスパート、実況が邪魔だ。ラインベックの名前を全く呼んでくれない。今に見てろ、僕のラインベックは視界の外からやってくるぞ。  ラインベック。さっき知ったばかりの馬に僕は家賃を賭けている。心の準備ができる前にゴールしてしまうので心臓に悪い。  ラインベック。両親が強かったらしいじゃないか。本気を出すならそろそろだぜ。  ラインベックは、最後まで馬群の真ん中で他の馬と仲良く走り終えてしまった。知らない馬が1着になった瞬間に画面から目を背ける。ああ、ダメだったか。強い絶望に身を斬られて思わずタバコに手が伸びる。7万円近くも払って僕は地獄に住んでいた。  一部の人に期待され、最後まで諦め切れないポジションを保ったまま、ラインベックは凡馬と化した。「まだ本気を出してないだけ」と言いながら何も成し遂げることなく26歳を迎えた僕の人生のような結果だった。後ろを向いて逃げた僕と比べたらゴールするだけ立派だろう。  結果を見て、ため息が出る。1着だったのは、11番人気の馬だった。入る穴を間違えた。  家賃に間に合わせるために買った馬券が当たればカッコ良かったが、これではまるでギャンブル中毒みたいじゃないか。僕は家賃のお金すら賭けたかったのではなく、家賃を持っていなかったから勝負に出た。だがこの理屈を世間は詭弁と呼ぶだろう。ぐうの音も出ない。その通りだ。  部屋に静寂が戻る。どんなに辛くても前を向かなくてはならない。  何度も繰り返してきた金のない一週間が、始まる。 5/14 借金残高 ¥5,161,798-
NHKマイル購入画面

09番のラインベック。入る穴を間違えた穴だ

フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩
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