緊急事態宣言が解除されたものの、ひと心地つく間もなく「アラート」が発動。コロナをめぐる政府や行政の対応は相変わらず混迷を極めています。
ただ、そうしたマクロの視点はさておき世の多数を占めるサラリーマンにとっては、今後の会社員人生にどう影響が出てくるのかのほうが関心事です。
「withコロナ」という言葉が出てきていますが、本稿においては市場の変化は横におき、会社員の組織における動き方という点に絞り、「withテレワーク」の環境下でどう動いていくべきなのかを考えていきたいと思います。
社内の「ひそひそ話」は絶滅の危機
まずは今後、コロナがある程度、落ち着いて以降の会社の様子から考えていきたいと思います。
テレワークは間違いなく広がっていくはずです。特に一都三県の会社では来年の東京オリンピック期間の対応、また大地震などの自然災害リスクなどもあるため、必然的に進みます。企業規模を問わず、家賃や交通費、人件費など諸々の経費を圧縮させ、かつ通勤時間という無駄な時間をカットさせて転用できるという「会社にとっていいこと」尽くめのテレワークを経営サイドは積極的に定着させていくでしょう。
※写真はイメージです(以下同)
それにより古い体質の会社にありがちだった「昭和型チームワーク」は急速に崩壊していきます。一部の権力者を中心としたインナーサークルが社内中枢に形成され、会社に存在する旨味の多くはそのサークルの構成員が確保するという構図のチームワークです。
みんなが集まっている会議はニコニコと無難に進行、終了後に一部の有力者だけが修羅の顔を突き合わせて「さてさて、どうするよ?」みたいなシーンは確実になくなっていきます。
なぜなら、そうした「ひそひそ話」は突発的に阿吽の呼吸で手短に行うので、どうにもこうにもZoomなどのビデオ会議ツールの空気感や、履歴が残ってしまうチャットなどが多用されるリモート環境とは相性がよくありません。
関係者に共有されるスケジューラの運用が徹底されてしまうと、そこに表示されない時間帯を作って「ひそひそ話」をすること自体がやりにくくなるという理由もあります。
テレワークによるリモート会議とグループチャットを中心とした仕事の進め方は、そのやりとりを多くの関係者に常に見られながらやっていることになるので、結果的に会社に「貢献していない人/できない人」をあっという間に浮き彫りにします。従来は感度のいい人しか気づかなかったことが、ほぼ全員がわかるようになったことは大きな変化です。
今まである部門で評判が悪い人がいても、一緒に仕事をしていない他部門の人からすると「そうなのかなあ? そんなに悪い人間に見えないけど?」と言ったように評価が分かれることはままありましたが、そうした「評価のギャップ」は急速になくなっていくでしょう。
いわゆる二枚舌三枚舌を駆使して組織内の政治力というものに頼っていた人は行動様式を変えないとその武器を奪われ、足元をすくわれることになります。「昭和型チームワーク」にいた人たちの中で、直接的に会社のオペレーションに貢献していない人も不要扱いになるリスクが一気に高まっていくはずです。
人事評価は「見えるもの主義」が進んでいくと考えられます。
たとえば、新規開拓の営業部のAさんは潜在顧客をだいたい月に5件訪問して半年に1回は1件の大口を取ってくる。一方、Bさんは同じく月に10件訪問して毎月1件は小口を取ってくる。人事評価でBさんがAさんより低かったことが判明し、怒ったBさんが上司や人事におかしいと文句を言う。その場合、どこかでもにょもにょとした話し合いが行われ、一応はBさんは納得します。
ところがベテランCさんは月に3件しか訪問はしませんが、Aさんよりもずっと規模が大きい大口を追いかけて、自腹で飲み会やら電話やらで攻勢をかけています。ただし、今年度は営業成績はゼロに終わりました。
それでも超大口が取れそうになっているのを上司は知っていますし、過去の実績からも次年度取れそうというのはわかっています。このCさんの評価がAさんよりもさらに高くなったため、今度はAさんが文句を言います。それでもごにょごにょと話し合ったあと、Aさんも納得はします。
成果主義ができてるのか、できてないのがよくわからないこうした状態は、ある種日本の会社に馴染んできました。ここで文句を言った側が最後矛を収めるのは、上司の口がうまいというだけではありません。情報の非対称性があったからです。
Cさんとお客さんとのやりとりを深くまで知っているのは上司とCさんだけです。なので、Aさんと上司の話し合いにおいて、Aさんを説き伏せるためにちょっと話を盛ったところで、Aさんには真相はわかりません。しかし、今後はオープンな場で、3者以上が一斉につなぐシチュエーションでのやりとりが増えていくためにAさんやBさんも真相を知っていくようになります。
オンライン会議はあらかじめスケジュールを決めるというステップがあるため、「ちょこっとした1対1のやり取り」が激減していきます。わざわざ「ちょっと今日、ちょこっと話していいか? ○時から」とはなりにくいです。
そんなやりとりをメールでするならば、電話でさっと話してしまえという行動も昭和のおじさんは得意ですが、若い人ほど身構えて、不慣れになっていきます。通知された番号を見てスルーすることも、未読スルーに慣れた世代にとってはお手の物。
つまり、これまではある意味で社内を丸く収める効果があった「情報格差」が減っていくため、言い逃れや裁量が働きにくくなり、よりわかりやすい数字表現に評価が委ねられていくわけです。
株式会社リヴァイタライゼーション代表。経営コンサルタント。東京大学大学院修了後、投資会社、経営コンサルティング会社で企業再生などに従事したのち、独立。現在も企業再生をメインとした経営コンサルティングを行う。著書に『好景気だからあなたはクビになる!』(扶桑社)などがある
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