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「#自殺」で出会った、4人の男女の物語/鴻上尚史

ハルシオン・デイズ2020、舞台を彩るキャスト陣

 この妄想を持つ役に、柿澤勇人さんをお願いしました。(初演は、北村有起哉さんでした)  もともと、柿澤さんは『スクール・オブ・ロック』に出演し、僕が演出する予定でした。  が、コロナ禍で公演が中止になり、柿澤さんのスケジュールが空いたので「やりますか?」と声をかけたのです。  抜群の身体能力と演技に対する真剣さで、「ああ、所属しているホリプロの未来を背負う俳優さんだなあ」と感じます。  そこに、自殺志願者のフリをしてこっそりと自殺を止めにくるカウンセラーが現れます。初演は辺見えみりさんでしたが、今回は、落語とプロレスが好きな南沢奈央さんです。  僕とは4年ぶり、二回目のタッグですが、素敵なコメディエンヌになっていました。僕にとって「コメディエンヌ」は、女優さんに対する最上級のほめ言葉です。  もう一人、彼女と共に若者がやってきます。その男は、彼女にしか見えません。じつは、彼女がかつて担当したクライエントで、今はもう死んでいます。彼は、幽霊ではなく、彼女が見る、とてもリアルな幻なのです。  初演は、22歳の高橋一生さんが演じました。今回はオーディションで須藤蓮さんを抜擢しました。未来ある野望に溢れた若者です。  そしてもう一人、借金を返すために死ぬしかないのかと思い詰めた中年男性もやってきます。本当は死にたくないので、ウダウダと迷います。  初演は大高洋夫が演じました。今回は、ミュージカル界から石井一孝さんをお願いしました。圧倒的な声量と熱量、汗の量でものすごくパワフルです。  この4人で、毎日、稽古を続けました。

「えいやっ!」と頑張れる

 人間は社会的な動物なんだなあとしみじみします。  どんなに落ち込んでいても、稽古場に来て、キャストとスタッフと会えば、「えいやっ!」と頑張れるのです。  家だと一人で悶々とするかもしれないのに、他の人間がいると「がんばるか」と思えるのです。  こういう時、僕は自分が作家で演出家であることの幸運に感謝します。  どちらかだけでは、コロナ禍の中では辛いだろうと感じます。  いよいよ、公演です。できうる限りの感染対策をして、お客様をお迎えします。  あなたと劇場でお会いできたら、本当に幸福だと思います。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
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