ぱっとしない人事の狙い
―― 報道によれば、安倍氏は幹事長に高市氏、官房長官に細田派の萩生田光一前文科相を推したが、希望が受け入れられず、岸田体制に不満を持っているようです。実際、岸田体制では、安倍氏に重用され、安倍内閣時代から名が通っていたような人が起用されていないので、非常に地味な印象です。岸田首相は安倍氏の傀儡にならないように、安倍サイドの要求をはねのけた面もあるのではないでしょうか。
中島 私はむしろ、安倍氏があえて岸田体制の人事が地味になるように画策したのではないかと見ています。安倍氏からすると、岸田内閣の人気が高まり、支持率が上昇することは、決して望ましいことではありません。岸田首相が国民人気を背景に衆院選を勝利に導き、大きな力を握るようになれば、安倍氏の影響力が小さくなってしまうからです。
安倍氏にとって理想的なのは、岸田内閣にそれほど期待が集まらず、かといって野党の人気も出ないという現在の状態が続くことです。これならキングメーカーとしてのポジションを維持することができます。今度の衆院選についても、安倍氏はちょっと勝つくらいでいいと思っているのではないでしょうか。こうした安倍氏の意向が今回のぱっとしない人事につながったのではないかと思います。
―― 岸田首相は小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換すると述べ、パソナ会長の竹中平蔵氏が民間議員を務める成長戦略会議を廃止する方向だと報じられています。これは竹中氏と親しくしてきた安倍氏にとって痛手ではないでしょうか。
中島 私は安倍氏が菅氏の力を排除するため、成長戦略会議を廃止するように働きかけたのではないかと考えています。竹中氏が食い込んでいたのは、安倍氏というより菅氏だからです。竹中氏が小泉内閣の総務大臣だったころ、菅氏は総務副大臣として竹中氏を支えていました。菅氏は第二次安倍内閣の官房長官や総理大臣になったあとも、一貫して竹中氏を重用してきました。
そのため、竹中氏の影響力が落ちれば、菅氏の影響力も落ちることになります。それが安倍氏の狙いだと思います。
―― 岸田自民党では安倍氏の出身派閥である清和会より、麻生派のほうが重用されているように見えます。これを機に麻生派が勢力を拡大し、安倍氏の影響力を排除していくことは考えられませんか。
中島 麻生氏が宏池会出身者たちを束ねて大宏池会を作り、清和会に対抗したいという野望を持っていることは間違いありません。とはいえ、派閥がかつてのような力を持つことはないと思います。先日の自民党総裁選でも、多くの派閥が一致団結して特定の候補者を応援するということができませんでした。小選挙区制になって党中枢が公認権を握るようになり、派閥がお金を配ることもなくなったので、派閥の力は落ちているのです。派閥という単位を重視しすぎると、政治の先行きを見誤ると思います。
―― かつてキングメーカーと呼ばれた田中角栄は、首相をやめたあとも、大平正芳内閣、鈴木善幸内閣、中曽根康弘内閣に大きな影響力を持っていました。また、竹下も首相退任後、宇野内閣、海部内閣、宮沢喜一内閣を裏から操っていました。しかし、キングメーカーとして振る舞えるのはせいぜい2~3の内閣です。安倍氏は菅内閣に続き岸田内閣でもキングメーカーになろうとしていますが、彼の権勢はそれほど長続きしないのではないですか。
中島 そこで安倍氏が狙っているのが、キングメーカーをやめ、自らもう一度総理になることです。過去の内閣を見ると、最初は高い支持率で出発しても、3か月くらいたつと人気が落ち始めます。おそらく岸田内閣も年末くらいから支持率が落ち始め、来年の参院選のころには「岸田では選挙を戦えない」という声が出てくるはずです。そうなれば、安倍氏が再び乗り出してくる可能性は十分あると思います。
―― 安倍氏は長期政権を築いたとはいえ、いまは一議員であり、派閥にも属していません。彼にもう一度総理を狙う力は残っているでしょうか。
中島 そこが長期政権の恐ろしいところで、安倍政権時代、政界や官界、財界で出世してきたのは、安倍氏に取り入った人たちでした。彼らは現在もそれぞれの業界で重要なポストを占めており、安倍氏が今後も力を持ち続けることを望んでいます。安倍支配が崩壊すれば、彼らの立場も危うくなるからです。それが安倍氏の力の源泉になっているのです。
―― とすれば、安倍体制から脱却するためには政権交代しかありません。
中島 それには野党第一党である立憲民主党が二大政党制という幻想を捨てることが不可欠です。民主党出身者の中には2009年のような政権交代を目指している人もいますが、当時は麻生内閣の不支持率が支持率を大幅に上回っており、政党支持率も民主党が自民党を大きく上回っていました。現在の立憲民主党にはこうした勢いはありません。立民が単独で過半数をとることは不可能です。
そもそも現行の小選挙区比例代表並立制では、比例代表の定数が176もあり、比例から多数の当選者を出している公明党と共産党の力を無視できない仕組みになっています。そのため、立憲が政権を奪取するには、共産党と協力するしかないのです。
また、今後の情勢次第では、新党が出現する可能性もあります。そのきっかけになりうるのは、来年の参議院選挙です。1993年に細川護熙内閣が誕生したときも、前年の参院選で細川氏率いる日本新党が議席を獲得し、新党ブームが起こりました。次の参院選でも新党が結成され、新たなムーブメントが巻き起こるかもしれません。その場合は、立民は彼らとの協力も視野に入れるべきです。
さらに言えば、自民党から離党者が出ることも考えられます。安倍氏と距離のある石破茂氏や野田聖子氏などが離党しないとは言い切れません。そうなれば、彼らとの連携も重要になります。
細川内閣が誕生したのは、竹下や金丸の傀儡だった海部内閣成立からわずか4年後のことでした。野党側が来年の参院選で自民党を追い込めれば、その次の衆院選で政権を奪取できる可能性はぐっと高まります。野党はそこまで見据えた体制を作るべきです。
(10月5日 聞き手・構成 中村友哉)
<初出:
月刊日本11月号>
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『月刊日本2021年11月号』
【巻頭インタビュー】議会は民主主義の砦だ 衆議院議長 大島理森
【特集1】傀儡政権の耐えがたい空虚
【特集2】政治と一体化する警察
【特集3】原敬暗殺100年 いま原敬から何を学ぶか
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