更新日:2023年08月29日 16:25
仕事

“恐喝で逮捕された”女子高生が「28歳で医学部に合格」するまでの紆余曲折

「不良だった」からこそ理解できる

河原風子氏

親と子どもの問題を第三者的に診ていきたい

 人生を折れ線グラフで表すとすれば、まさに乱高下。その気流をくぐり抜けた河原氏は、精神的な安定こそ人生にとって重要だと話す。 「幼い頃は、どうしても家庭がその子の土台にならざるを得ないと思います。しかし、昔の私やその他多くの非行少年のように、安定的な家庭に生まれた人ばかりではありません。私の場合は、家庭で得られなかった安心感を、恩師だったり異性だったりという外部に求めました。そういう土台ができて初めて、何かに挑戦してみようという意欲が沸き起こるのだと思います。  かつて不良として周囲に迷惑を掛けた私と不登校に悩んで外来にやってくる子どもたちは、一見真逆に見えるかもしれません。しかし、同根である場合が多いと実感します。どちらも親との関連性に問題を抱えているからです。一昔前に“毒親”という言葉が流行し、機能不全家族の問題が可視化されましたが、私は“優しい毒親”も存在すると考えています。  親の側もなりたくて毒親になっている人はいないし、不登校の子どももその状況に焦っていることがほとんどです。そうした親と子どもの問題を第三者的に診て、アプローチできる医師になること。それが今の私の目標です」

自分と似た思いをする子供たちに手を差し伸べたい

 医師として日々業務に邁進し、依頼があれば講演や勉強会にも出向く。多忙を厭わない原動力は、「昔の自分との対話」だという。 「私の現在の活動によって、少しでも救われる人がいたとしたら、あの頃の自分がちょっとでも喜んでくれるんじゃないか……そんなふうに思って行動しています。極論は自分のためにやっているような部分があるんです。あの当時、私は本当に毎日が辛くて逃げ出したくて、どうしようもありませんでした。似た思いをしている子どもたちに手を差し伸べてあげられているとしたら、少しは報われる。そんな気がしますね」  満たされない思いを抱え、「助けて」さえ言えず彷徨った河原氏の学生時代は、誤った方法でしか自分を表現できなかった。翻って、登校という“当たり前”ができない落伍者の烙印を押され、大人から「助けて」を無視され続ける子どもたちは自宅で立ち往生している。  表出の仕方は違えど根っこで繋がる2つの「助けて」。同じ周波数を持つ者の耳にしか届かない声なき悲鳴を、今日も河原氏は拾い上げる。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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