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「4歳のときビール瓶で頭を殴られた」父のアルコール依存症と戦い続けた男性が選んだ道

父の介護とお泊りデイサービスを起業

 しかし、父の家に通いながら、藤田氏は26歳の時に熊谷市でお泊りデイサービスの事業所を開所する。今は全国で4万事業所もあるデイサービス事業所だが、当時は全国で4000事業所くらいしかなかった。  そして、30歳の時に「茶話本舗」というお泊りデイサービスブランドを展開し、日本介護福祉グループを立ち上げた。茶話本舗は介護の世界では初のフランチャイズシステムを取り入れた。生活保護受給者でも利用できる価格で、待機していた家族はこぞって「茶話本舗」に親を預けた。保守的な介護の世界では、口さがない人たちから「守銭奴」との非難も浴びた。 「特養老人ホームの待機者は当時で、全国に約42万人いました。僕が勤めていた社会福祉法人だけで、約600人の待機者がいました。待機家族には、デイサービスを使ってもらったり、ショートステイを使ってもらったりしていたのですが、親を早く特養老人ホームに入れたいのが家族のニーズでした」  そんな茶話本舗の事業所は5年で約950か所まで急拡大した。茶話本舗というと、新聞や週刊誌がセンセーショナルに報じた「高齢者を雑魚寝させている」というイメージを持つ人もいるが実際はどうだったのだろうか。 「高齢者が雑魚寝しているという悲惨なイメージは、全く関係のないお泊りデイサービス事業所のことです。茶話本舗の場合、個室の場合もあれば個室じゃない場合もありました。反論を某新聞社に持って行きましたが、一切受け付けてくれなかった

誤算だった人手不足と「ある問題」

 茶話本舗は急拡大する半面、人手不足と「ある問題」から加盟事業所で高齢者への虐待が起きることもあった。その問題とは、介護・福祉業界内での法人の種類による序列だ。 「介護・福祉業界には今でも、社会福祉法人が一番偉く、その次にNPO法人、最後に民間企業という序列があります。地域包括支援センターが軽度の認知症患者を割り振るのは社会福祉法人で、僕たち民間の法人には重度の高齢者が紹介されてきました。社会福祉法人に勤務していた頃には、見たことのないようなひどい状態の高齢者の対応に追われました」  この序列の問題は、表向きはないことになっているが、複数の介護・福祉関係者に取材すると実在するという。新卒で社会福祉法人に入社した藤田氏にとり大きな誤算だった。利用者を迎えに行くと、長年、蔵に私宅監禁されていた、オムツ一丁の老人がヨロヨロと出てくることもあった。
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オペをして酒を飲んで生きる
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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