仕事

“働かない高給取り”の上司とワンマン経営者。若手看護師を潰す「地獄のクリニック」

―[モンスター上司]―
 大きな組織から小さな職場に転職し、憧れの職業に就いた。だが、絶望するほどの職場だった。ワンマンな経営者とその意をくみ取り、やりたい放題の上司がいる。まさに会社を私物化している。あなたが、その社員ならばどうするかー。  今回は実際に起きた事例をもとに、職場で起きた問題への対処法について考えたい。本記事の前半で具体的な事例を、後半で人事の専門家の解決策を掲載する。事例は筆者が取材し、特定できないように加工したものであることをあらかじめ断っておきたい。

若手看護師を潰す「24時間態勢の訪問介護クリニック」

訪問看護師

写真はイメージです

 都内近郊にある「24時間態勢の訪問介護クリニック」に勤務する女性看護師の堂本みゆき(仮名、29歳)は、今、退職を考えている。  大学の看護部を卒業し、新卒で大学病院に勤務。3年在籍し、4年目で現在の訪問介護クリニックに移った。職員は医師、看護師、検査技師、事務職など約30人。24時間態勢の訪問看護は、10代の頃から憧れだった。  実際に入ると、想像とかけ離れていた。事務長兼看護師部長は、60代前半の女性。この女性が15年程前に妹らと出資してつくったクリニックだけに、実質的な経営者であり、オーナーになる。院長以上の発言力を持つ。  社内のすべてを掌握していないと気がすまないようで、看護師7人、検査部の技師4人、医療事務4人、医師2人の仕事に口をはさむ。そして中途半端に放り出す。そのことを言われると、感情的になり、当たり散らす。  揚げ句に、30代のひとり息子を「次の事務長」として無試験で入れ、初日から総務部長としている。親子で私物化しまくりの日々だ。クリニックの車11台のうち、2人で5台を乗り回す。親子で2週間も夏季休暇をとる。息子は残業はまったくなく、有給休暇はフル消化。看護師や技師は、ほとんど消化できない。  事務長兼看護部長は、看護部の副部長に50代後半の女性を10数年前からおく。この副部長は、大学病院の看護部長レベルの賃金を払う。クリニックでは、特別な扱いだ。副部長は、部下である看護師たちにはきわめて厳しい。深夜でも、患者の家族から連絡が入ると、そこに出向くように20~30代の看護師に指示をする。自分が出向くのは、1年に数回。20~30代の看護師は、深夜に出向くことが少なくて年に40回、多いと70回にのぼることも。

自分の立場を脅かす若手には退職を促す

 20~30代の看護師が「深夜のローテーションをつくり、公平にしてほしい」と言えば、副部長は辞めるように仕向ける。意見を言えないような雰囲気にする。それを事務長兼看護部長は、黙認する。それどころか、擁護することすらある。  看護師が30代になり、仕事を覚えると、副部長は「もう、ほかの24時間態勢のクリニックでも大丈夫」と辞めるように誘う。もっぱら、自分のポストを奪われるからアブナイと感じ、潰しにかかっている、と20~30代の看護師たちは指摘する。  堂本ら若手の看護師数人は、事務長兼看護部長に副部長の自分たちへの対応に問題がある、と直訴した。事務長兼看護部長は厳しい口調で言い返した。 「うちのような規模では、リーダーとしての性格や気質、資質に多少の問題があったとしても、技能を評価せざるを得ない。医療は、患者さんの命に関わるもの。まして、ここは24時間態勢。たとえリーダーとしての資質に問題があったとしても、その人を副部長職から外し、ほかの看護師に任せることが今すぐにできるかと言えば難しい。    それほどにここが嫌ならば、副部長のような高い技能を身につけるか、あるいは今、辞めるしかない」  堂本はこんなところでは先が見えない、と思い悩んでいる。
次のページ
人事のプロはどう見る?
1
2
3
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数
記事一覧へ
おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】