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低コストの“海外製牛乳”流入で日本の酪農が大打撃

「オーストラリアやニュージーランドでは牛乳1リットルあたりの生産コストが15~20円程。それに対し、日本は北海道で70円、本州で80円ほど。TPPで関税(200~300%)を取り払えば、価格競争ではまるで勝負になりません」と語るのは、東京大学の鈴木宣弘教授。外国産のチーズやバターなどの乳製品が入ってくることにより、日本の酪農に大打撃を与えることになるという。

 鈴木教授が言うように、各国の牛乳1リットルの生産コストは次のような状況だ。

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自然なスタイルで健康に飼育される牛。コストもかかり、効率重視で「工業製品」のように造られる牛に太刀打ちするのは難しい

●米国/40円
生乳生産量8900万t、世界第2位の酪農大国。政府による酪農への保護は手厚い。乳製品の価格が下落しすぎた場合には政府が酪農家から乳製品を買い取る制度を設けている。

●EU/40円
生乳生産量世界トップ10に3か国が入り、加盟27か国全体では世界1位のインドも凌ぐ。特にチーズの生産が盛んで、世界の生産量の半数近くを占める。

●中国/15~20円
生乳生産量世界4位。’00年以降、急激に酪農が成長した。’07年には5万人のメラミン中毒事件を起こした。現在は国内消費が中心だが、’25年以降に対日輸出の可能性も。

●ニュージーランド/15~20円
生乳生産量で世界9位。生産量に比して人口が少ないため、生乳は加工品として輸出される。コストの安さから競争力は世界最強と言われ、米国の酪農家も脅威として恐れる。

「現在、北海道産牛乳の8割が乳製品用として使われ、本州産の牛乳は主に飲用乳として使われています。ところが、外国から乳製品が入ってくることにより、比較的生産コストの安い北海道の牛乳も飲用乳の市場に入ってくるようになります。その結果、千葉や茨城などの酪農家が“全滅”してしまうと予想されているのです」

 実際には、北海道から本州への輸送費が1リットルあたり18~20円かかるため、「北海道産の牛乳に千葉や茨城の牛乳が全滅させられるとは必ずしも言えない」としつつも、「いずれにしても、TPPで日本の酪農家が壊滅的打撃を受けることは避けられないでしょう」と鈴木教授は断言する。

 ちなみに、中国はTPP参加国ではないが、「実際に米国筋とも議論したのですが、米国が日本にTPP参加を促す真の狙いは、中国を参加させること。そうなってくると、欧米豪よりも距離的に近い中国からは、飲用乳が入ってくる可能性があります」(鈴木教授)というだけに、もし参加となれば日本の酪農家は窮地に陥ることは必至だ。

 TPP推進派からは「日本の農業も大規模化して競争力をつければいい」という主張もよく聞かれるが、そう単純なことではない。千葉県の酪農家で、政府との交渉にも関わる斎藤昌弘氏はこう語る。

「米国やカナダの牧場は日本の100倍くらい広い。もともとの土地の広さが違うので、大規模化と言っても日本の酪農家には限界があります。どれだけ大規模化・効率化したとしても、外国産の牛乳には絶対に勝てないでしょう」

 大規模化には多額の費用もかかる。「牧場の規模を拡大しようとすれば、何千万、何億円という借金をしなくてはいけません。しかし政府は今、TPP交渉で牛乳を“例外品目”にとどめており、“除外品目”としてはいません。“例外品目”は、あくまで5~10年で開放されるもの。つまり、いずれは外国産の牛乳が日本に入ってくるのです。ですからどの酪農家も設備投資をためらっているのです」(斎藤氏)

 5/14発売の週刊SPA!「ニッポンの牛乳が危ない!」では、窮地に立たされる酪農家、さらにそれらがどう消費者に波及する問題となるか、また日本の国益を損なうことになるのかを多面的に検証。欧米では「基礎食料」とみなされ、公金を投入してでも国内自給するのが当たり前といわえれる牛乳・乳製品が、TPPやアベノミクス円安などの結果、どのような状況に追い込まれるかをリポートしている。 <文/週刊SPA!編集部>

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