「メジャー流」映画製作に横浜DeNAが挑戦
◆横浜DeNAの球団公式映画は球界に風穴を空けるか? プロ野球では通常、ロッカールームや監督室までカメラが入れない。この作品は、球団スタッフが製作を担当したことで、普段は表に出ない選手たちの“聖域”を映すことに成功した。あまりオープンとはいえない日本球界においては画期的な取り組みだ。 製作、監督を務めたのは、球団の事業本部映像事業部長である三木慎太郎氏。スポーツ専門チャンネルのJ SPORTSからチームスタッフに転職した、異色の経歴の持ち主だ。 同氏は前職時代にも、清原和博氏と桑田真澄氏のKKコンビ、佐々木主浩氏といった蒼々たるメンバーが顔を揃える野球界の当たり年「昭和42年会」のイベントや忘年会に密着取材したドキュメンタリー作品を手掛け、好評を博した実績を持つ。いわば、スポーツコンテンツ領域における敏腕クリエイターである。 ◆メジャーリーグで巻き起こる映像イノベーション DeNAの取り組みが画期的と評される一方で、海の向こうのメジャーリーグではこうしたドキュメンタリー製作が日常的に行われている。 今年のワールドチャンピオンに輝いたボストン・レッドソックスは、未だ記憶に新しいワールドシリーズでの激闘を既に“映画化”。メジャーリーグの映像制作部門であるMLBプロダクションズが製作した。 ⇒【動画】2013 World Series Film trailer(予告編) http://wapc.mlb.com/play?content_id=31229033&topic_id=9991168 本格的なフィルム製作の一方で、MLBは「ファンの力」を活用した斬新な試みにも取り組んでいる。 レッドソックスがデトロイト・タイガースと戦ったア・リーグ優勝決定シリーズ第2戦。4点ビハインドの劣勢で試合終盤を迎えたレッドソックスは8回裏、主砲のデビッド・オルティスが起死回生の同点グランドスラムを放ち、球場の雰囲気を一変させた。この一打でシリーズの流れを掴んだレッドソックスはタイガースを4勝2敗で下し、ワールドシリーズに進出した。 世界一へのターニングポイントとなったこのシーンはスポーツニュースでも繰り返し流されたが、その瞬間をスタンドで観戦していたファンたちが撮影した動画を組み合わせて作られた斬新な映像が話題になっている。 ⇒【動画】Big Papi’s grand slam http://wapc.mlb.com/play?content_id=31242729 今日のスポーツ観戦では、スマートフォンで写真や動画を撮影しすぐさまツイッターやfacebook、YouTubeなどに投稿するのがお約束。この映像は、そんな今時ファンの特性を活かしたものといえよう。スタンドの様々なアングルから撮影された映像は、TV中継カメラとはまた違う臨場感を味わえる。 ◆これからのスポーツ界に求められる「セルフプロデュース力」 DeNAのドキュメンタリー製作により近い事例として挙げられるのは、2012年のワールドシリーズを制したサンフランシスコ・ジャイアンツが制作した「オレンジ・オクトーバー」(http://sanfrancisco.giants.mlb.com/sf/fan_forum/gen/episodes/orange_october_2013.jsp)だ。 全12本のエピソードから成るこのドキュメンタリー・シリーズは「チームとファンの一体感」をコンセプトに、球団子会社のサンフランシスコ・ジャイアンツ・プロダクションズが製作したもの。チームの舞台裏を紹介する「インサイド・ザ・クラブハウス」シリーズの一環としてプレーオフの激闘を描き、作品は全てウェブで公開されている。 本作品のディレクターを務めたブライアン・サルビアン氏は、球団のソーシャルメディア担当でもあり、自身もメディアのインタビューを度々受けるなどスポーツ界注目のメディア人。DeNAと同じくジャイアンツも、球団内に専属クリエイターを抱えているのだ。 プロスポーツはエンターテイメントであり、魅力的なメディアコンテンツの宝庫。iPhoneの1台でもあればショートフィルムのひとつくらい作れてしまう今日、リーグや球団が自らそれを活かさない理由はないだろう。DeNAの取り組みは、日本のスポーツ界における「セルフプロデュース」の先駆けとなるかもしれない。 <取材・文/内野宗治(スポーツカルチャー研究所)> http://www.facebook.com/SportsCultureLab 海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当
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