深海の奇怪生物「オオグソクムシ」を女性記者が食べてみた
20年前、ジェームズ・キャメロン監督の『アビス』を見たときには、深海というところには訳の分からない生物がいるもんだ、と畏怖した。しかし、昨今盛んに報じられるダイオウイカの水揚げ映像を見ていると、以前はまるでもうひとつの宇宙のようであった「深海」が私たちに対しグッと歩み寄ってきたのを感じる。
3月29日と30日、「ヨコハマおもしろ水族館」では深海生物の試食イベント「深海祭り」が開催された。同イベントを通して深海生物に興味を持ってもらおうという趣旨だが、目玉は何といっても「オオグソクムシの試食」。
※この先はオオグソクムシの写真がオンパレードなので、心してご覧いただきたく。
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そもそもみなさんは「オオグソクムシ」という生物をご存じだろうか。
彼らは体長10cm~15cmほどの甲殻類で、分類上はダンゴムシやフナムシと同じ節足動物に属す。脱皮を繰り返すことで鎧のような殻を層状にまとい、その姿はまるで『風の谷のナウシカ』に登場するオームのよう。無骨な外見である一方、飢餓状態で何年も生きられるという謎めいた生態が注目され、オオグソクムシの約3倍もある「ダイオウグソクムシ」は昨年ニコニコ生放送などに登場した。
◆定員の約4倍もの客が押し寄せた
イベント初日には約200名の客が訪れ、何とも異様な熱気に包まれる会場。約9kgの「ユメザメ」の解体ショーでイベントは幕を開けた。
ゴリゴリと音を立てて解体され、その巨大な肝臓や卵などが観客に披露された。その後、イタリアン風にソテーされたものが振る舞われ、記者も試食。正直、ほぼ無味無臭のためタラなどの白身魚とさして変わらない印象。これならタラと言われて疑う人はいないのではないだろうか。「食・品・偽・装」の四文字にたぶらかされる人間が出るわけだ。
◆虫よりも虫らしい外見「オオグソクムシ」
いよいよメインのオオグソクムシが登場する。その揚げ物を試食する前に、展示スペースにて生きたオオグソクムシに触れる。彼らの行動パターンは、静止しているかと思えば突如加速して泳いだり丸まったりと予測不能で、ある種ゴキブリのそれに近い恐怖を覚える。
実際に持ち上げて裏返してみると、まさに節足動物の腹!というような強烈なビジュアルである。正直あまり好みではない。地球上でオオグソクムシ顔の男しかいなくなってもこの身を委ねることはないだろう。しかし、腹部分を持ったまましばらく観察すると、泥酔女子が「いやぁん、まだ帰んなぁい」とだだをこねるかの如く腰をくねらせ、意外に可愛らしい面もある。
◆「オオグソクムシ」の揚げ物、それはエビに近い
中華街にある店で揚げられたというオオグソクムシ。一般客も食べやすいようにとネギ油もかかっているため、大変香ばしい。しかし、そのビジュアルは衣でも隠しきれなかったようだ。黒くつぶらな瞳が油でいっそう輝きを増している。
顔からかぶりついてみる。甲殻類特有の味噌を期待して渾身の力で脳天あたりを吸うが、驚くほどに何も出ない。どうもこのオオグソクムシというやつ、味噌はおろか身も非常に少ないそうだ。1匹あたり耳かき2匙程度しか身が取れないものの、味を聞かれたらほとんどの人がエビまたはカニと答えるだろう。
カリッと揚げられたオオグソクムシ。
悔しいかな、奇妙な外見とは裏腹に、その味は私たちが日常やたらありがたぶる「海の幸」そのものだった。将来的にオオグソクムシが市場に並ぶ日はきっと来ないだろうが、「深海」を舌で感じられる大変興味深いイベントであった。
<取材・文・撮影/井上こん>
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