マンデー・ナイトロよりも生グレープフルーツ・ハイ――フミ斎藤のプロレス読本#099【Tokyoガイジン編エピソード09】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「コンビニの上の居酒屋にいますから」といって電話をくれたのは、ホーレス・ボウダーの友だちのサトーくんだった。
コンビニエンスストアの2階の居酒屋といったって、そもそも池袋というところはコンビニと居酒屋とカラオケボックスばっかりのディストリクトなのである。
サトーくんは「ファミリーマートの上の“村さ来”ですよ」と説明してくれたけれど、電話を切ったとたん、それがファミリーマートだったかサンクスだったかもうわからなくなった。
ボウダーとその友人たちは、池袋西口のとある交差点の角の緑色のコンビニの2階にある居酒屋のいちばん奥の座敷でちいさなパーティーを開いていた。
サトーくん、リュウドンくん、Mちゃん、ノリちゃんらはホーレスのトーキョーのディア・フレンズ。テーブルの上にはサイコロステーキ、ツナ・サラダ、コロッケ、ピザ、皿うどん、餃子なんかの小皿がきれいに並べられていて、ホーレスが座っているところには生グレープフルーツ・ハイの大ジョッキがでんと置かれていた。
キーワードは“ビーイング・マイセルフBeing Myself”なのだった。どうやったら“自分Me”が“自分らしくMyself”でいられるかをじっくり考えてみたら、やっぱりトーキョーに戻ってくるしかなかった。
ホーレスはメジャー団体WCWの契約選手だから、黙っておとなしくしていれば食いっぱぐれることはまずない。試合がなくても毎週、ホーレスの家には定額の小切手がちゃんと送られてくる。
月曜夜の3時間ライブ“マンデー・ナイトロ”はスーパースターのための連続ドラマだから、いまのところホーレスの出る幕はない。出る幕がないということは、アリーナに足を運ぶ必要もないということだった。
毎週月曜の夜は自宅のテレビでリモコンを片手に“マンデー・ナイトロ”とWWEの“ロウ・イズ・ウォー”を同時にエアチェックしていた。画面に映っているリングがずいぶんよそよそしくみえた。こんなことが1年近くつづいた。
いまさらそんなことをいってもしようがないかもしれないけれど、ホーレスはハルク・ホーガンの甥にあたる。ホーレスの父親がホーガンの兄だから、血縁関係そのものはディープだ。でも、WCWのTVショーではふたりの関係は公表されていない。
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