更新日:2022年10月29日 01:37
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初詣は家族ばらばら…異なる神社・お寺でお参りをする!? 青森県津軽地方に残る世にも珍しい風習

 グローバル化が叫ばれ、日々新しい文化が生まれ続ける日本。とはいえ、全国各地には数百年も前から地元に根付いた文化が残されていることをご存じだろうか。  とりわけ、青森県の津軽地方には“化粧地蔵”や“津軽一代様”など、独自の民間信仰が数多く現存しているらしい。そこで、今回は記者が現地まで足を運び調査してみた! 津軽地方の文化

衣装を着飾った“化粧地蔵”のお地蔵さんとは異なる意味

 人々にとって、身近な信仰対象として親しまれてきたお地蔵さん。お寺やお墓だけではなく、首都圏の道ばたでも見かけることがある。日本では平安時代より地蔵信仰が広まったとされ、古くより苦痛や悩みから救ってくれる存在だった。 津軽地方の文化 だが、津軽地方におけるお地蔵さんの多くは、信仰の対象とは異なる意味をもっているらしい。衣装を着飾り、顔には化粧が施されている。 津軽地方の文化  果たして、どういうことなのだろうか。五所川原市金木町川倉地区にある「川倉賽の河原地蔵尊」。日本三大霊山の1つとして知られる恐山と並び、津軽の民俗信仰の中心として栄えた霊場である。同所の中谷さんに話を聞いた。 津軽地方の文化「ここのお地蔵さんは“化粧地蔵”と呼ばれ、故人の家族が持参したもの。故人が愛用していた衣服やクツ、ランドセルなども奉納されています。なかには、衣装自体が描かれているお地蔵さんもあります。その場合は、実際の衣装を着る必要はありませんが」  要するに、化粧地蔵は“亡くなった人を永代供養するため”のもの。位牌のような役割を担っているのだ。地蔵尊堂には、約2500体のお地蔵さんが安置されており、いまでも1年に30体近く増え続けているという。  また、独特な風習はそれだけではない。地蔵尊堂の横には、新郎新婦の人形が祀られた人形堂が併設されている。これは、結婚をする前に亡くなってしまった息子や娘のために親がしてあげているのだという。 「たとえば、25歳ぐらいの適齢期になると、まわりの友達は結婚しますよね。でもその前に自分の息子が亡くなってしまった場合は、かわいそうだということで……人形には、息子の名前と架空の花嫁の名前がつけられ、安置されます。あの世でお嫁さんをもらって幸せになってほしいとの願いが込められているんです」 津軽地方の文化 化粧地蔵だけではなく、独自の風習がこの地方に残っている証拠だろう。 津軽地方の文化 さて、化粧地蔵は川倉賽の河原地蔵尊だけではなく、津軽地方に数多く見られるそうだ。ちなみに毎年、お地蔵さんの命日である旧暦6月23日を挟む3日間で開催されている例大祭では、死者の霊を呼び出すイタコの口寄せなども行われている。

津軽地方に伝わる干支の守り神、“津軽一代様”とは?

 続いては、干支にまつわる津軽独特の風習。私たちは、それぞれの生まれ年によって自分の干支となる動物が決められる。年賀状や縁起物に使われることは周知の通りだ。津軽地方には、それだけではなく、“津軽一代様”と呼ばれる信仰が残っているらしい。初詣をはじめ、厄払いや受験、就職などの節目には一代様をお参りするのだという。 ・國上寺  平川市の「國上寺」。推古天皇の代に聖徳太子の命で泰河勝が阿闍羅山上に建立したのが始まりで、のちに北条時頼が古縣に再建したといわれる。今年の初詣は“一代様”を目当てに多くの人で賑わったという。長老の小野照隆さんに詳しい話をうかがった。
津軽地方の文化

國上寺の長老・小野照隆さん

「津軽一代様とは、自分の生まれ年の干支を守り神とした信仰のことで、檀家に加え、自分の干支によって参拝する神社や寺が決まっています。この風習は津軽だけです。津軽藩が関係しているとも言われますが、どのような経緯でいつ頃から始まったのかはっきりとはわかっておりません」 津軽地方の文化 津軽地方では、干支ごとに守護本尊が決められている。そして、その本尊を奉った神社仏閣が“一代様”となるようだ。 「國上寺の守護本尊である不動明王は酉の一代様。2017年は酉年ですので、今年お子様が生まれた方で百日参りに訪れる人も多かったです。津軽で生まれた人にとっては、一代様はいまでも根強く信仰されていますね」 津軽地方の文化  一代様は、神社の場合もあれば、寺の場合もある。なにか理由があるのだろうか? 「昔は神仏習合だった。お寺が神社に変わることもありました。ですので、一代様には寺と神社が混ざっているのです」  國上寺では先代のときまではパンパンと手を叩いて参拝していたという。また、現在でも境内に狛犬の姿が見られるなど、神仏習合の名残があった(※参拝するときに手を叩くのは神社の作法。狛犬も神社にあるのが一般的)。 津軽地方の文化
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家々で信仰される“おしら様”も
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明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

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【川倉賽の河原地蔵尊】
住所:青森県五所川原市金木町川倉七夕野426-1
電話:0173-53-3282

【國上寺】
住所:青森県平川市碇ヶ関古懸門前1-1
電話:0172-45-2446

【神宮寺】
住所:青森県平川市猿賀石林166-2
電話:0172-57-3182
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