自衛隊がホルムズ海峡への派遣に耐えられない理由
9月14日未明、サウジアラビア東部に位置する国営石油会社の施設が攻撃を受け、同国の日量生産能力の半分に当たる約570万バレルの生産が一時的にストップした。
かねてから「親イラン」と見られていた隣国イエメンのイスラム教シーア派の武装組織「フーシ」が、ドローン(無人機)10機による攻撃を行ったとの犯行声明を出したが、米国とサウジはフーシによる“単独犯行”を否定。使用されたのはイラン製のドローンとイラン革命防衛隊が保有する巡航ミサイルであったと断定し、ミサイル攻撃もイランから直接撃ち込まれた可能性が高いとイランを名指しで非難している。
中東情勢がさらなる混迷を極めるなか、ホルムズ海峡を巡って米国から再三にわたって「有志連合」への参加を要請されていることから、10月から始まる臨時国会では、再び「自衛隊の海外派遣」が議論に上りそうな見通しだ。米国主導の「海洋安全イニシアチブ」への参加について、現時点で政府は「否定的」な立場を取っているが、果たして、派遣は現実的に可能なのか?
今回、自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰し、新書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社刊)で話題となっている国防ジャーナリストの小笠原理恵氏に聞いた。
――サウジの石油施設への攻撃を機に、ホルムズ海峡への自衛隊の派遣問題がクローズアップされ始めたが。
小笠原:日本政府の見解は、あくまで攻撃を仕掛けたのは「フーシ」としていますが、米国がイランの関与を疑っている以上、シーレーンの要衝であるホルムズ海峡を巡って緊張が高まることは避けられません。現在、保険の世界ではあの海域は「戦闘地域」扱いとなっており、6月に日本企業のタンカーが攻撃されて以降、さらに船舶保険料は高騰しています。
米国が民間船舶の護衛のために「有志連合」への参加を日本に呼びかけているのも、“自国に石油を運ぶ船舶を自国で守るのは当然”と考えているからにほかなりません。
ところが、自衛隊の海外派遣は法的に難しいうえに、国民は今回の事態を楽観視しており、日本に石油が入ってこなくなることなど想像だにしていない。政府が「有志連合」に参加しようとしても、野党は今も平和安全法制の廃止を求めている。世論も応じないだろうし、政治家もこうしたことを理解しているので、早晩、国会で議論の俎上に上げることも難しいのではないか……。
とはいえ、エネルギーの安定供給も確保しなければならない。石油タンカーは30万トンの原油を運びますが、それでも日本国内の消費量の半日分程度でしかありません。ほとんどの原発が停止している今、発電は火力に偏り、石油がなくてはならないものになっているのも事実なのです。今後、ホルムズ海峡で日本や他国の民間船舶が攻撃されるなど事態が悪化すれば、議論せざるを得ないでしょうね。
――2016年から2017年にかけて大きく報じられた「自衛隊日報問題」では、過去の海外派遣で「戦闘」に巻き込まれた可能性があったことが明らかとなっている。仮に、ホルムズ海峡へ自衛隊が派遣されることになったら、大きな危険を伴うことが予想されるが。
小笠原:ホルムズ海峡への派遣となると、過去の海外派遣のときと比べても、かなりのリスクを背負うことになるでしょうね。相手が海賊なら海賊対処法があるので武力行使も可能ですが、今回は相手が違う……。軍艦に対しては、現行法では武力行使はできません。
また、今回は日本船舶のみを対象とした護衛でもなければ、相手が不審船でもないので、「海上警備行動」にも該当しません。結局、平和安全法制の「重要影響事態」と捉えて、法律をうまく運用するか、それができないのなら、新たな法整備が必要になる。
それでも日本船舶のみを護衛することができるのか? 甚だ不透明です。実務面でも、自衛隊の指揮命令系統で、敵が撃ってきたとき即座に反撃できるのか? 現場は悩ましいでしょう。
仮に、反撃して相手に死者が出たとき、国内法で殺人罪に問われかねないが、現行法では自衛官の安全を担保できていない……。イラクPKOの日報にもあったように、一瞬即発の状況を乗り切るようなギリギリの対応を迫られることになるのは間違いない。
サウジ石油施設攻撃で中東情勢緊迫化
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