ショボくなった中国の最新「賄賂事情」。税務署職員の回鍋肉は他の客より豚肉が多い!?
習近平が進める反腐敗運動の“ラスボス”とされ、収賄や国家機密漏洩などの容疑で拘留されていた周永康・前共産党政治局常務委員に無期懲役の判決が下った。26億円という収賄額に死刑も予想されたが、意外にも寛大な判決となったと中国メディアは報じた。
中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
本件で「虎もハエも叩く」というスローガンの下で繰り広げられた政治ショーは、第一部閉幕といったところだ。では、巷から汚職が一掃されたかというと、まったくそんなことはない。中国在住フリーライターの吉井透氏は話す。
「賄賂が形を変えています。増えているのが官僚の子息を社員として雇う例。給与支払いにすれば、堂々とお金を渡せますから。またネットオークションを使った方法もある。まず、収賄側が中古の家財道具や骨董品など価値のわかりにくいものを出品します。そして贈賄側が法外な額で落札するというもの。他にも貿易決済を装って海外送金し、幹部の息子の留学費用に充てるなど、巧妙な贈収賄も流行していますね」
重慶市在住の自営業・砂川孝昌さん(仮名・49歳)も最近、形を変えた賄賂を要求された。
「中国では、9月10日の『教師の日』や家庭訪問のときに、担任教師に金品を贈る習慣があった。小学生の娘を持つ私も毎年、頭が痛かったんですが、反腐敗運動の始まった2年ほど前から、教師は受け取りを拒否するようになった。
しかし、教師はますます厚かましくなった。ウチの子の担任は、個人的な旅行に行く際に空港まで車で送迎するよう要求してきた。ほかの親にも、引っ越しを手伝わせたり、個人的な買い物を頼んだりしている。
日本に観光旅行に行く家族に、温水洗浄便座を買って帰るよう要求した教師もいたそうです。断ると子供の評価を低くされるかもしれないので、みんな断れない。こんなことなら、小銭で済んでいた時代のほうがよかった」
しかし、「腐敗の深刻度が以前より増している」と指摘するのは、広州市郊外で飲食店を経営する松田尚さん(仮名・42歳)だ。
「ある飲食店で食事をしていたら、顔を知っている地元の税務署の職員がいた。彼らはかつては飲食店での飲み食いはすべてタダ。その代わり、店側は納税の際にお目こぼしをしてもらっていた。そんな彼らの天下も反腐敗運動で潰えたはずだった。
ところが、店を出るとき、ふと職員の卓上の回鍋肉を見ると、私が食べたものより豚肉の量が3倍くらい多かった。あきらかに利益供与です。そんなチンケなもので買収されているとしたら、反腐敗運動以前より、不正が行われやすくなったと言えます」
一方、反腐敗運動に対し、中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰氏は、一定の評価を下す。
「習近平政権発足後、一日あたり500人の官僚が規律違反で処罰されています。これまでの指導者ができないことをやったという意味では間違いなく画期的で、現時点では評価したい。もちろん巷にはいまだに腐敗が残っていますが、それだけ今まで腐敗が社会の隅々までを蝕んでいたということ。反腐敗運動は今後も続くはずですが、腐敗が改善されて、庶民の経済活動を正常化させることができるか、彼の手腕に注目したい」
真っ黒だったこの国の浄化には、まだまだ月日がかかりそうだ。
<取材・文/奥窪優木>
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