第三十二夜【後編】

【担当記者:スギナミ】

フロアを回遊する男女のそれぞれの恋のカタチ

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 店長が去った後、席についたのはあきなチャン。笑顔がチャーミングな美女に、鼻の下は伸びっぱなしだ。

 しばらく会話を楽しんでいると20分間のショータイムが始まり、それが終わると場内が暗転。そして、「みなさんお隣のホステスさんとチークダンスはいかがですか?」とアナウンスが流れた。

 高鳴る胸の鼓動。「ちょっと、行こうか?」。平静を装いつつ、あきなチャンの手を取りダンスフロアへ。左手で彼女の手を取り、右手を腰に回す。『きまぐれオレンジロード』で予習してきたチークの基本ポーズ、抜かりはないはずだ。

 生バンドが奏でるのはプラターズの「Smoke gets in your eyes」。心地よいバラードに合わせて揺れるボクとあきなチャン。手に伝わる彼女の体温、口からもれる吐息、そして……肌の匂い。ほかの客の姿はもはや目に入らない、スポットライトの下には二人だけの世界があった。「ドレス、素敵だね」、「嬉しいわ、ありがとう」、「僕ぁこの曲、好きなんだ」、「あら、私も好きだわ、ウフフ」。歯の浮くようなセリフをそっと囁いてみるが、恥ずかしさはない。この店でチークを踊っている間、すべての男と女は、銀座のモボとモガ(モダンボーイ/ガールの略)に変身しているからだ。

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 夢のような時間は終わり、店内に再び喧噪が戻ってきた。ラストダンスのお誘いはなかったが、また挑戦したい。なぜなら、銀座の”夜の社交場”は、いつまでも変わることなくあり続けるのだから……。

ラストダンスを好みのコと踊れば男の”格”も上がる

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チークダンスを踊るチャンスは、20時と22時から始まるショーの終わった後、
そして閉店前の”ラストダンス”と1日に3回訪れる。女のコの体を撫でたり、
強引に抱き寄せる行為は、気持ちはわかるがNG。嫌われること必至だ

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「チークを恥ずかしがる若いお客さんは多いけど、気軽に誘ってくださいね」とは写真の紗江チャン。お爺ちゃんの代から孫の代まで3世代で来るなど客層は幅広い

撮影/石川真魚 協力/井口 裕

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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