雑学

風俗嬢のおっぱいを背中に感じながら私はギブアップした――爪切男のタクシー×ハンター【第二十二話】

 「死」について。

 自分の人生をどれだけ思い返してみても「死にたい」という感情を持ったことが一度もない。物心ついた時には、母親は私を捨てて家を出ていた。太平洋戦争での自分の手柄を意気揚々と語る祖父と、桑田佳祐と落語が嫌いな祖母と、アマレスでオリンピック候補にまでなりかけた体育会系の親父と、一千万近い借金と共に私は育った。借金の理由はちゃんと聞いていない。理由が分かったところで借金が無くなるわけではない。

 少しでも家計の足しになればと、幼少期から内職のアルバイトをさせられたりもしたが、私は遊びのように仕事をこなしていたので、そこまで苦痛は感じなかった。貧乏が理由で学校や近所で虐められたりもしたが辛くはなかった。感情を全く見せない私を心配した親戚の寺の坊主が「この子はお母さんのお腹から出てきてすぐに四十度を超える熱を出した。その時の熱で人間の感情を失ったのかもしれない」と言っていた。そんなことを考えるなんて、お寺の坊主はよほど毎日暇してるんだろう。理由は単純で、まだ子供だった私は、自分の思考回路を越えている現状を理解することができず、自分が何か別の物語の中にいるかのように錯覚し、自分を騙して毎日を生きていた。

 子供はそれでいいかもしれないが、さすがに大人はそうもいかぬようで、精神的に限界を迎えた親父は私と一緒に死のうとしたことが一度だけあった。

次のページ 
親父は海を目指していた

1
2
3
4
5
6
死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

⇒立ち読みはコチラ http://fusosha.tameshiyo.me/9784594078980





おすすめ記事