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風俗嬢のおっぱいを背中に感じながら私はギブアップした――爪切男のタクシー×ハンター【第二十二話】

 小学校低学年だった私を車の助手席に乗せ、親父は町へと繰り出した。いつものようにスーパーでもやしと蒲鉾と竹輪と豆腐を大量に買い込むのだとばかり思っていた。だが、車は普段とは違う見慣れない道を走り続け、山道の中腹にあるお城のような建物の駐車場に停まった。 「これ飲んでいい子にして待っといてな」  そう言って、紙パックのリンゴジュースを三つ私に手渡すと親父はお城の中に入っていった。めったに飲めないフルーツジュースに興奮した私は、ジュースを三つ一気に飲み切り、その幸福感からすぐに眠ってしまった。気付いた時には、車はすでに走り出しており、鼻歌交じりでハンドルを握っている親父からは柑橘系の良い匂いがした。今になって思えば、あれは女の香水の匂いだったと思う。死ぬ前に風俗嬢を抱いたのだろう。親父は海を目指していた。  港の埠頭に車を停めてから一時間以上が過ぎていた。車は海の方を向いており、周りに人影はなかった。親父はハンドルを両手で抱え込んだ姿勢で無言のままだった。不意に親父が私にガムを渡して来た。ロッテのブルーベリーガムだったと記憶している。当時の我が家では滅多に食べれない高級なお菓子の登場に、私は飛び上がって喜んだ。久しぶりに口の中に広がるガムの味はあまりにも美味しかった。「ゆっくり味わって食べるんやぞ」という親父の忠告を無視し、私はガムをすぐに飲み込んでしまった。飲み込んでは次のガムを口にし、十秒ほど噛んだらまた飲み込むことを繰り返し、あっという間にガムを食べ切ってしまった。
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大人になってから、この時のことを親父に聞いたことがある
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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