サブカルおじさんの罪と罰――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」
―[鈴木涼美のおじさんメモリアル]―
単行本も好評発売中! 元日経新聞記者にして、AV出演経験もある文筆家・鈴木涼美の最新刊「おじさんメモリアル」。
今回はサブカルおじさんスペシャル!
【サブカルおじさんの罪と罰】
カルチュラルスタディーズの古典的名著「サブカルチャー スタイルの意味するもの」の著者であるディック・ヘブティジは同書の中で「サブカルチャーはノイズである」と語った。ヘブディジには悪いが彼がヘゲモニーに挑戦するものとして位置付けたそのサブカルチャーのノイジーな感じを2017年に私は、全く切り離された文脈で感じている。
さて、カルスタの名著の話は眠いので、話を数次元レベルの低いところへ誘います。私の知人に、東京近郊で映画の上映会などを頻繁に開きつつなんか本棚だらけで耐震性ゼロっぽいカフェバーを経営しているモコ山という男がいる。カフェの本棚にあるガロのバックナンバーや異様に絵が下手な割に値段が高い大判の漫画はもともと彼の私物で、ブックスタンドには彼が大学時代に手作りした「ノア」と「アンコ」という粘土製人形が使われている。
彼は25歳の頃に大学院時代の彼女と結婚した。おそらく私も知るその絨毯みたいな素材のパーカーを着ていた女が人生初の彼女である。
そして絨毯パーカーにすら縁遠かった20歳そこそこの童貞時代、私は彼のパソコンに保存してあった音源で、みうらじゅんがもうひとりの引き笑いが汚いおじさんとセックスのBGMについて語っているのを聞かされた。横で下ネタと音楽についてあえて照れを隠して話すモコ山の眠たい説教にはなんの興味もなかったし、そもそも当時の私にとってセックスとは、「テープチェンジするから水上げてー」とかいう監督の声を聞きながらするものであったため、よく私もそんなこと覚えているな、と思うのだが、逆にいうと彼とはかなり長い期間にたような場所で勉学を共にしていたにも関わらず、特記すべき思い出はそれくらいしかない。
枯葉みたいな色の上着を着た彼はとある近代思想家の著作を読む勉強会で、料理のうまい絨毯パーカーちゃんと知り合い、それからはそれまで大学の友人や岩手県内の高校の上京組同窓生などと顔を出していた爆音ゴダールナイトなどに絨毯と来るようになった。一応連れ歩いてはいるものの、別にバカップルみたいにチュッチュするわけでもなく、モコ山はモコ山で無表情を決め込んでいた。あたかも自分は10代からの青春、デレデレ女のケツなんか追いかけている男たちとは違った尺度で世界を見ており、別のものを愛し別のものを深く考えていたので、彼らのことなど微塵も羨ましくなかったし、絨毯をまとった彼女ができたことくらいでその態度を崩すつもりはない、と言わんばかりに。
彼ら2人が揃っているところを最後に見たのが、当時誰かの自宅で鍋をしながら「エレクトリックドラゴン 80000V」(浅野忠信が雄叫んでる映画)を観るというしょうもない会合であった。絨毯ちゃんが自宅でグリーンカレーを煮て、それをタッパーに入れて持ってきてくれたので、それを一緒にコンロで温めてみんなに支給した。3人もの男が自宅でグリーンカレーを食べるのを見たのはそれが最初で最後である。その会合の1年後くらいに結婚したらしいのだが、私には別に連絡はなく、さらにその3年後くらいに誰かから聞いた。
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
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| 『おじさんメモリアル』 哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録 ![]() |
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『おじさんメモリアル』 哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録
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