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「天真爛漫な南仏美人と清楚な日本美人、どちらを選べばいいのか?」――46歳のバツイチおじさんはヨガの総本山で煩悩にまみれた〈第38話〉

翌朝5時30分、朝の瞑想を行った。るりちゃんを見つけ、目で挨拶をした。 すると、にこりと笑ってくれた。 朝ヨガを真面目に終え、ブランチを食べ、カルマヨガであるトイレ掃除をした。 昨日にも増して、便器をピカピカに磨きあげた。 太っちょインド人はあまりにも真剣にトイレ掃除をする俺に対し、首を横に振り理解不能のポーズをした。 その後、お昼のプライベートレッスンまでに少し時間が余ったので、溜まり場である大広間でお休みをした。 床に大の字になって寝転んでみた。 ひんやりとした床がとても気持ちがいい。 俺は目をつぶった。 「何もかもが充実してる」 俺はるりちゃんの誘いを受け、このアシュラムに来れたことに心の底から感謝した。 とても、とても充実している。 るりちゃんと同じ空間で同じ空気を吸い、同じものを食べる。 そして、朝から晩までヨガの道に全精力を注ぐ。 るりちゃんに対する俺の煩悩はこの空間で研ぎ澄まされ、 シンプルな恋心に昇華しつつあった。 俺はこの空間に感謝し、目をつぶったまま空気を吸い込んだ。 次の瞬間、ふと目を開けると、サワが俺の隣にちょこんと座っていた。 俺「おー!!! びっくりした。いつからいたの?」 サワ「今来たの」 俺「そうなんだ。いや、びっくりした」 サワ「ねぇ、ゴトー、この後少し時間がある?」 俺「え、うん。プライベートレッスンまでに30分ほど時間があるよ。どうしたの?」 サワ「ねぇ、今日ちょっと暑すぎない?」 俺「うん。確かに今日は暑いねー」 サワ「この後、二人でアシュラム抜け出して泳がない?」 俺「え? 泳ぐ?」 サワ「うん。暑すぎるから体を冷やしたいの。ねぇ、一緒に泳ごうよ」 俺「泳ぐってどこで?」 サワ「湖。この間泳いだでしょ。アシュラムのすぐ下にも湖で泳ぐとこがあるの」 俺「えーー。いいのかな?」 サワ「大丈夫よ。少しぐらい」 俺「うーん」 サワ「ねぇーゴトー。行こうよー、少しだけ、ね!」 そう言って俺にウィンクをした。 とてもキュートなウィンクだ。 サワ「ねぇ、ゴトー。お願い!」 そう言うと、サワはニコリと微笑んだ。 彼女の底抜けで天使爛漫な笑顔は、いつも俺の心をポカポカにしてくれる。 うーーーん。 どうしよう。 でも、るりちゃんに悪いしなー。 いや、ちょっと泳ぐくらいいいか。 るりちゃんとは付き合ってるわけでもないし。 カルマヨガも終わったし、あと30分ほど時間はあるしなー。 カルマとは因果応報のこと。 もしかすると、さっき便器をピカピカに磨き上げたからトイレの神様が俺にご褒美をくれたのかもしれない。 しかも、こんな美女からのお願いだ。 ここで断ると男がすたる。 俺「よし! 行くか!!」 サワ「イエーーーーイ」 俺とサワは外出届けを出し、アシュラムを抜け出した。 みんなが真面目にヨガ合宿をしてると思うと、少し背徳感を覚えた。 いや、それはるりちゃんへの罪悪感なのかもしれない。 だが、その背徳感と罪悪感が俺をよりドキドキと興奮させた。 何より、南フランスの美女と二人っきりで湖で泳ぐ。 しかも金髪の白人美女――。 ここではご法度のはずの煩悩が、ひょこっと顔を出し始めていた。 10分ほど歩くと真っ青な湖が見えた。

暑い南インドに嫌気がさした南フランス娘のサワ

俺の脳内iTunesにはフランス映画『エマニエル夫人』のテーマがかかった。 ♪~メロディー・ダムール・シャンテ・ル・コー・デマニエル キ・バ・コー・ア・コー・ペルドゥー

ああ、何とも甘美な歌だ。 やはりフランス美女といえばこの曲しかない。 サワ、どんな格好で泳ぐのかな? 水着? 下着? それとも全裸? 南フランスの女性はトップレスで泳いだりするのかな? 気づくと俺の頭は煩悩でいっぱいになっていった。 ジジジジ(ノイズ音) 突然、変な雑音が頭の中に響いた。 脳内iTunesがシャフルを起こしたのか? すると、今度は『トイレの神様』がかかった。 ♪~トイレーには~ それはそれはキレイな~女神様がいるんやで~ あ、るりちゃんの歌だ。 一体、俺の脳内で何が起きてるんだ? ここに来て、またるりちゃんへの罪悪感が徐々に大きくなっていく。 心が急激に乱れ、俺は混乱した。 「天真爛漫な南フランスの美女 vs 清楚で可愛い日本美人、俺はどっちを選べばいいのだろう……」 脳内iTunesでは、『エマニエル夫人』のテーマと『トイレの神様』が1小節ずつ、食い気味に流れ続けている。どうやら俺の脳内コンピューター自体が完全に故障してしまったようだ。 煩悩を取り除き、心身を整えるヨガ。 心の沈めて無心になるための瞑想。 しかし、ヨガ漬けの日々もまだ序盤だというのに、 俺は今までにないくらい心が乱れ、煩悩に取り憑かれてしまった。 いま、目の前には、湖を前に泳ぎだそうとしているサワがいる。 果たして、水着か、下着か、全裸か……。 俺の煩悩が、この3択クイズの答えを今か今かと待ち構えている。 もういい! なるようになれ! 「恋の女神、出てこいや!!」 黒い悪魔の形をした煩悩が、俺の体から蒸気のように吹き出していた。 次号予告『優柔不断なバツイチおじさんがとった予想外の動きとは? まさかの展開にインド人もびっくり!?』を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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