曲芸競技!? 意外と知らない謎の競技「新体操」は東京五輪観戦の穴場か?
新体操には「ロープ」「フープ」「クラブ」「リボン」「ボール」の5種類の種目があるのですが、どれも大体同じ演技なのです。確かに投げているものが違ったり、クルクルさせるものが違ったりするので見た目は若干異なりますが、根っこの部分はまったく変わらない。「大開脚ジャンプをしながら何かを投げる」「片足をあげてバランスを取りながら何かをクルクルさせる」という要素の、持っている「何か」が違うだけ。
両手に何かを持ってトレーニングをするときにバーベルを持っていようがペットボトルを持っていようが、動き自体は変わらないでしょう。それと一緒で、新体操も持っているものが違うだけでやっている動きは大体同じなのです。そのため2種目・3種目とつづけて見ていくと、大体同じなので飽きてくるという一面も。
ただし、「持っているものが違うだけでやっていることは大体同じ」という点は運営側も把握しており、ルール上も大胆な施策が打たれています。「ロープ、フープ、クラブ、リボン、ボール」と5種目あるうち、ひとつの大会の個人総合で行なわれるのは4つだけ。1種目は必ずお休みになるのです。体操で言えば「ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒」の6種目のうち、何かひとつずつ抜けるような話。
ゆかで世界一の白井健三さんに「今大会はゆかはやりません」と告げたら「はぁっ!?」となりそうなものですが、新体操ではそれが当たり前。新体操という競技は、ロープが得意とか、リボンが得意とか、何かひとつの得意が生まれる類のものではなかったのです。
「リボンなんて飾りです。一般人にはそれがわからんのですよ」
の世界なのです。
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とは言え、手具が本当にどうでもいいかというと、そうではありません。難しい投げ方や、特徴的な取り回しなどをすることでボーナス加点をもらうことができ、曲芸的な動きが上手であればあるほど得点が伸びていくという仕組みになっています。
「投げた手具を、手以外の場所(たとえば足など)でキャッチする」「投げた手具を足などで突き返して、もう一回上にあげてからキャッチする」「2本のクラブでお手玉する」「投げたフラフープをくぐる」「指の上でボールを回す」などの曲芸で得点が増していくので、上位選手になるほどやっぱり曲芸が上手です。特に近年はルールの改定もあり、曲芸の要素が強まってきています。曲芸的な動きの回数を制限なく入れられるようになったので、最初から最後までずっと曲芸していれば、それだけ有利になるのです。
これは新体操側から世間への歩み寄りと言ってもいいかもしれません。「リボンとかを使った曲芸ですよね?」という認識を「そうじゃないです、体操です」と正すのではなく、「そうです、リボンとかを使った曲芸です」と認めることにした、世間の認識に合わせにいったということなのですから。
リオ五輪で新体操団体の日本代表が行なった「リボン4本投げ」という大技なども、まさに曲芸でした。5選手で行なう団体で、4人の選手が投げたリボンを1人の選手がリボンで束ねるようにしてキャッチして投げ返す。こうしたオリジナルの曲芸を生みだして他チームに差をつけていくことが、今の新体操での勝利への道となっています。
ですので、新体操というのはこれからますます観戦向きの面白い競技へと進化していく段階と言えます。東京五輪へ向けて開発される数々の新しい曲芸が、演技のあいだ隙間なく行なわれ、選手それぞれに個性を生みだしていく。現時点だと「曲芸だと思って見たら、そうでもなかった」という感じかもしれませんが、東京五輪頃には真の曲芸になっているはずなのです。
競技としての新体操については、どのように見るべきか、何が勝負のポイントかといった基礎的な情報すら、日常的に触れられる場所がないのが実態です。たとえばインターネットで検索などしても、ルールや採点の仕組みにたどりつくのは難しいでしょうし、観戦のポイントなどを取り扱った記事も少ない。その意味では競技としての新体操は「謎」が深いものです。
ただ、最終的に世間のイメージ通りの「曲芸」に近づいていくのであれば、ルールやら仕組みやらがわからなくても問題はなくなります。「曲芸が上手いほうが勝つ」ならば、飽きることもありませんし、何をやっているのかよくわからないという疑問を持つこともないでしょうから。曲芸の凄さは万国共通のものです。
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