更新日:2022年12月10日 19:00
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三浦瑠麗氏「スリーパーセル」発言を読み解く。北朝鮮の破壊工作への警戒心は必要

江崎道朗のネットブリーフィング 第31回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う! 三浦瑠麗氏「スリーパーセル」発言を読み解く

外国の工作活動に対応する政府機関が存在する

 国際政治学者の三浦瑠麗氏が2月11日、テレビ番組『ワイドナショー』に出演し、「スリーパーセル」と呼ばれる北朝鮮のテロリスト分子が東京や大阪に潜伏していると発言したことで批判を浴びている。  スリーパーセルとは、身分を隠して社会に潜伏し、いざというとき破壊活動などを行う工作員のことだ。  こうした発言をすること自体が、在日朝鮮人に対する偏見を煽ることであり許されないという批判がある。だが三浦氏は、テレビ番組で在日のことに触れたわけではない。ただし、インターネットの世界では、北朝鮮や韓国に有利な発言をする政治家や学者、ジャーナリストに対して「在日」認定するような風潮があることも事実だ。誤解を招かないよう、慎重な言い回しが求められよう。  というのも戦前、我が国では、共産主義の本を持っているだけで、共産主義者やスパイというレッテルを貼ったり、有為の若者を逮捕したりといった行き過ぎがあった。その行き過ぎが結果的に、有為な若者たちを反体制へと追いやってしまった側面があったのだ。その問題点については、拙著『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』でも詳しく指摘したが、要は国籍や政治的主張を理由に安易なレッテル貼りをすることは慎むべきだということだ。  だが、同時に外国による工作活動から目を背けるべきではない。「三浦氏の発言は、社会不安を煽るものだ」という批判もあるが、破壊活動などのリスクについて指摘することは、リスク管理という観点からも積極的に認められるべきだ。  というのも、スリーパーセルを含む工作員が存在していることを前提に世界各国は対策を講じており、それは日本政府も例外ではないからだ。  外国による工作活動は、目的別におおよそ以下の三つのジャンルに分けることができる。  第一は、スパイ工作だ。主として国家機密などの情報を盗むことを目的とする。機密などを盗むために協力者を仕立てることも、スパイ工作の一つだ。  第二は、破壊工作だ。サイバー攻撃や重要施設の破壊、重要人物の暗殺などのことだ。スリーパーセルは、このジャンルに入る。  第三は、影響力工作だ。工作員が相手の国の政治家、軍人、官僚、ジャーナリストなどに働きかけて、自国に有利な方向へと、政策や世論などを誘導する工作のことだ。  こうした外国による工作に対応すべく日本政府は、専門の機関を設置している。内閣情報調査室、警察庁警備局、公安調査庁、防衛省情報本部などで、これらの専門機関が、さまざまな工作から我が国の安全と国益を守るべく、日夜、活動をしている。こうした基本的な事実を共有するだけでも、危機に対する心構えはかなり違ってくるはずだ。
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日本政府も「潜伏する工作員」を認めている
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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