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ブルーザー・ブロディ 超獣革命は“天国への階段”だったのか――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第50話>

 フロリダをツアー中にキラー・コワルスキーの推薦でWWE(当時はWWWF)にブッキングされ、ニューヨークでビンス・マクマホン・シニアからブルーザー・フランク・ブロディの新リングネームをプレゼントされた。  ブロディというリングネームを考案したのがマクマホン・シニアだったという事実は、いまになってみると不思議な感じがする。  6フィート5インチ(約196センチ)、320ポンド(約145キロ)の新キャラクター、ブロディはニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦でブルーノ・サンマルチノのWWE世界ヘビー級王座に2カ月連続で挑戦(1976年9月4日、同10月4日)。  そのまま翌年1月まで東海岸エリアをサーキットするが、ドレッシングルームでマッチメーカーのゴリラ・モンスーンと衝突し、WWEを解雇された。ブロディとプロモーターの確執の歴史はこのあたりからはじまっている。  マクマホン・グループの“ブラックリスト”に載ったブロディはアメリカ国内でのブッキングを妨害されたため、オーストラリア―ニュージーランド(ラリー・オーデイLarry O’Day&ロン・ミラーRon Miller派)のリングに活躍の場を求めた。  南半球での1年間はその後、ブロディが歩んだ道を理解するためにひじょうに重要な意味を持っている。ブロディはニュージーランド滞在中に将来の妻であり最愛の息子ジェフリーの母親となるバーバラさんと出逢い、心の師匠キング・カーティス・イアウケアとめぐり逢った。  “ウォー、ウォー”という動物のような雄叫び、リング上を歩きまわるときの独特のリズム、トランス状態のような目つき、手の甲をなめるしぐさといったトレードマークの数かずは、じつはイアウケアから伝授されたものだった。  ブロディはプロレスラーをインディペンデント・コントラクター=個人事業主ととらえ、プロレスラーとプロモーターは対等の関係であると訴えつづけた。  プロモーター側が用意した契約書にはサインをしないことをモットーとし、アメリカではつねに電話による口約束の“1試合契約”で全米各地のプロモーターと折衝をくり返した。  ダラス、ジョージア、フロリダ、セントルイス、カンザスといったNWA加盟テリトリーのリングにも上がったが、“反体制”の弱小インディー団体への協力も惜しまなかった。  友人をつくらず、バーバラ夫人と長男ジェフリーとの最小限のユニットをなによりも大切にした。  プロモーターたちにとって、ブロディは使いづらいスーパースターだった。  1万人クラスの観客動員力を持つ超大物ではあるけれどファイトマネーがとびきり高く、契約書のない“1試合契約”だから、リングの上でなにが起こってもプロモーターがそのあとのドラマづくりをコントロールできなかった。  そして、いちばんやっかいなことは、ブロディが絶対にフォール負けをしないレスラーだったことだ。プロモーターが「2回、来てくれ」と妥協案を提示すると、ブロディはいつも「そのころはオレは日本にいる」といって交渉を打ち切った。  その日、ブロディはプエルトリコの4日間の週末サーキットの3日めを迎えていた(1988年7月16日)。  サンファン郊外のバヤモンにあるワン・ルブリエル・スタジアムのベビーフェース・サイドのドレッシングルームにブロディが到着したのは午後7時15分ごろだった。  WWC(ワールド・レスリング・カウンセル=1974年発足)はカルロス・コロン、ビクター・ヨヒカVictor Jovica、ビクター・キニョネスVictor Quinones、そしてゴンザレスの4者が共同オーナー(当時)の団体で、ブロディは1983年からセミレギュラーのポジションでここで試合をしていた。  ドレッシングルームのベンチには、共同オーナーのひとりで現役レスラーでもあるゴンザレス(リングネームはジ・インベーダー1号)が座っていた。  目撃証言によれば、ゴンザレスの右腕には大きな白いタオルが巻かれていたという。凶器に使われたナイフをタオルのなかに隠し持っていたのだろう。
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ふたりはシャワールームに消えていった
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