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自衛隊はクーデターを起こす意思も能力もない。だから軍隊ではない――倉山満

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

言論ストロングスタイル

9月13日、北海道胆振東部地震発生から1週間を迎え、黙とうする自衛官たち。彼らは、内閣の命令がなければ、被災者の救助さえすることができない……(写真/時事通信社)

自衛隊はクーデターを起こす意思も能力もない。だから軍隊ではない


 ある人曰く、「自衛隊は誰がどう見ても軍隊だ」と。同じ人曰く、「誰がどう見ても軍隊だと思われるように、自衛隊を憲法に明記しよう」と。

 私のような浅学菲才の身には、誰がどう見ても軍隊ならば憲法典の条文に書こうが書くまいがどちらでも良いと思うが、どうしても日本国憲法の条文に「自衛隊」の三文字を書き込みたくて、血道をあげている人がいる。たぶん、この原稿が世に出ている頃には自民党総裁選挙に勝利している安倍晋三首相と、その熱心すぎる支持者の諸君だ。

 では、根本的に問う。軍隊とは何なのか。そして、その軍隊の要件に今の自衛隊は当てはまるのか。それを抜きにして日本国憲法の条文を守るか変えるかなど「改憲ごっこ」にすぎない。圧倒的多数の日本国民には関心がないだろうが、いざ改憲論議が始まると他人事ではいられないので、ここではっきりさせておく。

 まず、単なる事実を書く。自衛隊はクーデターを起こす意思も能力もない。だから軍隊ではない。

 これを過激だと思ったのなら、相当に平和ボケだ。「軍」とは、クーデターを起こす意思と能力がある集団なのだ。これが国際標準の常識だ。現実の自衛隊は、クーデターを起こす意思と能力がない。だから、軍隊ではない。この現実を見据えない限り、憲法論議は始まらない。

 では、日本国憲法の条文に「自衛隊」を明記したとする。その場合の「自衛隊」には、クーデターを起こす意思と能力はあるのか? ないのならば何の改憲かよくわからない。時間と労力の無駄だから、やめたほうが良い。あるのならば、改憲派は日本国民に対し、「クーデターを起こす意思と能力のある実力組織を持つ」と説得する義務がある。

 なぜ軍隊には、クーデターを起こす意思と能力がなければならないか。軍隊とは、国家秩序を守る実力組織である。一義的には、外敵から実力で以て国家秩序を守る。簡単に言えば、戦争をする組織だ。

 もう一つ、国内の秩序が崩壊したとき、すなわち政府機能が麻痺した時に、政府機能を回復する役割がある。だから、政府の命令がない場合に、動けないのでは困るのだ。この点が、警察とは全く異なる。

 警察の仕事は、捜査と逮捕である。無実かもしれない人間の権利を侵害するのが仕事である。だから、「許可事項列挙型」といって、「許可されたことだけやってよい」。結果、「捜査と逮捕以外はやるな」という雁字搦めの組織となっている。雁字搦めにしていないと困るからだ。ちなみに、法体系が許可事項列挙型の自衛隊などは、「すごい武器を持った警察」でしかない。現に、内閣が何もしなければ自衛隊は災害対策一つ何もできないではないか。

 一方、軍隊は「禁止されたこと以外はやってよい」という禁止事項列挙型の組織となっている。戦いに負けても国が滅んでも困るし、むしろ戦いに負けたり国が滅んだりして政府機能が麻痺した時でも、動けなければ困る。むしろ、そのような国家秩序が崩壊した時のために存在すると言っても過言ではない。

 軍の指導者とは、自分の頭で考えて動けなければ困るのだ。政府に指図されなくても。その能力は、裏を返せばクーデターができるということなのである。

 たとえば。第一次大戦後のハンガリーだ。敗戦の大混乱で、ハプスブルク帝国から独立したは良いが、無政府状態となった。無軍隊どころか、無警察状態になった。そこを共産主義者に付け込まれ、クン・ベラという独裁者に国を乗っ取られた。国中が阿鼻叫喚の地獄と化し、一説には13歳以上の女子の9割が梅毒にかかったともいう。この数字をそのまま信じるつもりはないが、いかなる地獄絵図であったかは想像できる。

 そこに、国外にいた陸戦隊のホルティー提督が軍を率いて帰還し、クン・ベラの政府を打倒して秩序を回復した。

 これは、典型的なクーデターである。法的には違法である。しかし、軍隊とは時に違法行為を以てしても、国家秩序を守らねばならない時がある。普通の国では、これを承知している。

 普通の国は、「軍隊とはクーデターを起こす能力がある存在である。だからこそ起こさせないように政治が強くなければならない」と考えている。これを「政軍関係」と呼び、一つの学問体系として研究している。

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