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なぜ、トランプは下院で野党民主党が勝利したことを気にしていないのか?

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

トランプ米大統領

11月7日、ホワイトハウスで記者会見するドナルド・トランプ米大統領。トランプ氏が苛立ち全開だと報じる日本メディアも多いが、本当にそうだろうか?(写真/時事通信社)

トランプ大統領は、選挙に北朝鮮を利用した。それを北朝鮮にわからせた


 アメリカ中間選挙が終わった。上院では与党の共和党が勝利した。直後、アメリカ国務省は北朝鮮との高官協議の延期を通告した。本原稿執筆時点でそれ以上に確実な話はなく、情報が錯綜している。ただし、確実に言えることがある。

 ドナルド・トランプ大統領は、自分の選挙に北朝鮮を利用した。そして、それを北朝鮮にわからせた。少なくとも北朝鮮はそれを理解したはずだ。北朝鮮は外交上手であり力の論理の信奉者であるだけに、自分より強い敵の意思と能力の分析を見誤らないからだ。

 トランプ政権は、北朝鮮の危険性、あるいは中国との貿易問題に関して警鐘を鳴らし続けた。選挙前は。これに敏感に反応したアメリカの有権者は、与党共和党に票を投じた。トランプの思惑通りである。選挙後には北朝鮮との協議延期を通告、「お前たちは俺の道具にすぎない。お前たちは、いきがっても構わないが、あくまでこちらの気分と都合次第だ」とのメッセージを送った。北朝鮮は、一歩引きさがるしかない。

 さて、今回の選挙結果である。下院では野党民主党が勝利した。トランプは気にしていないようである。これはアメリカ憲法を知っていれば理解できる発言である。

 まず、アメリカでは議会の権限が絶大である。立法権は大統領にはない。もし望む法律を作りたければ、教書と呼ばれる手紙を送るしかない。これは、単なる「お願い」である。それを聞くのも聞かないのも議会の自由。大統領の望む法律が実現できなければ、政権は死に体となる。しかも日本と違い、議会も大統領を不信任できない代わりに、大統領には議会の解散権はないから、死に体が次の選挙まで固定される。

 上下両院の選挙は議員が一斉に代わる総選挙ではなく、2年ごとに行われる。4年に一度の大統領選挙の合間に行われる選挙は中間選挙と呼ばれるが、まさに大統領への信任投票に近い。

 要するに、憲法上、議会の権限は大統領より強く、大統領は議会の多数を自分の支持者で固めなければ何もできないのだ。

 では、上院と下院の違いは何か。おおまかに、外政が上院、内政が下院とされている。これをより子細に見ていくと、上院の優越がわかる。

 立法権は、上下両院対等である。予算に関しては下院にのみ提出権があるが、上院の同意を得なければならない。事実上は対等である。

 予算や法律に関してもめた場合、どうなるか。現に年がら年中もめている。議会が予算を否決してホワイトハウスの電気代が払えず、大統領官邸から人っ子一人いなくなることもある(そんな暗がりで、女子大生にイタズラを働いた“不倫トン”というあだ名の大統領もいたが……)。

 議会が行き詰まると、実力者どうしで談合が始まり、妥協を成立させる。要するに、「議員歴ウン十年」というボス政治家たちの取引で決まるのだ。大統領自身も、そのボス政治家の一人である。

 どの大統領も自らが議会内のボス政治家の一人となり、他のボスとの取引で予算や法律をまとめてきた。例外は建国の祖で絶大なカリスマを誇ったジョージ・ワシントン初代大統領ただ一人。他は全員、議会対策で神経をすり減らしてきたのが、アメリカ政治だ。

 ボスどうしの談合では、巨額の賄賂が飛びかう。日本の族議員や国対政治など可愛いもので、田中角栄などアメリカ政治に放り込んだらクリーンな部類になってしまうほどだ。

 とにもかくにも、上院の下院に対する優越は確定しており、歴代大統領も下院よりも上院を重視している。

 上院は、大統領が結んだ条約と、指名人事の権限を持つ。指名人事とは、連邦最高裁判事や政府高官、大使などの外交官や高級軍人の人事である。これは上院のみの権限であり、下院は関係ない。

 日本の総理大臣は他の大臣の首を「お前ムカツク」の一言でクビにできるが(吉田茂は本当にやった)、アメリカ大統領は任命権すらない。

 最近の例では、ジョージ・ブッシュ大統領(子)が中間選挙に敗北した即日、イラク戦争を主導していたラムズフェルド国防長官が辞表を提出した例がある。野党多数の上院で同意が得られないのが目に見えているからである。結果、イラクに軍隊を増派したいブッシュは大統領の任期満了まで何もできず、2年後の退陣を迎えた。

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大統領が戦争を行うかどうかの決断も、上院の同意次第

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