更新日:2023年03月22日 10:19
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ドラッグの売人に間違えられたら歯痛が治った話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第46話>

とてつもない美女が話しかけてきた

 「踊る女ってなんであんなにエロそうなんだろう」  そう考えながら、ゲーセンの隅の方で眺めていると、ふいに話しかけられた。  「あの、すいません、ワ〇ワ〇の方ですよね」  さすがに名前を出すわけにはいかないので伏字にさせていただくが、別にワ〇ワ〇の人ではない。でも、話の感じからするに、当時隆盛だった携帯の出会い系サイトで会う約束をした女の人だったようなのだ。当然、僕はそのような約束はしていないので、完全なる人違いだ。 (※編集部注 ワ◯ワ◯メール:老舗マッチングサイト)  「いえ、ちが……」  そう返答しようとして、その女性の顔を見る。  めちゃくちゃ美人だった。  問答無用、完全無欠に美人で、ちょっとびっくりした。整った顔立ちに大人の女性的な色気もアリ、さらには服装やメイクからもちょっとエロそうな雰囲気をムンムンさせていた。  ここで冷静に考えて欲しい。この人智を超えた美人、当然ながら普段なら僕のような下賤な輩とは接点のない存在だ。  なにせ僕はカメラの顔認証が反応しなかったことがある。木目とかは勝手に顔と認証するくせにだ。そんな木目以下の僕は、おそらく道ですれ違っても視界にすら入れてもらえないだろう。それくらいこの女性の外見レベルは高い。  そんな女性から話しかけられているだけでも大変な騒ぎなのに、おまけに「ワ〇ワ〇」の方ですか? と来たもんな。さすがに名前を出すと問題があるので伏せさせてもらうが、どう考えても有名な出会い系サイトだ。つまり、出会い系サイトユーザー。そう、この女性は男と出会う目的であるということだ。この美人がだ。もう胸がワクワクしてくる。  つまり、完全なる人違いだが、ここで僕が「はいそうです」と答えれば、この美女をモノにできるわけだ。  「ダメよ! そんなことしたら本当に約束した人がかわいそうじゃない! 人違いですっていわなきゃ!」  「いいじゃねえか、いいじゃねえか、こんなチャンス二度とねえぞ、はいそうですって答えてしまえ。美女ゲットだぜ!」  葛藤があったのか、頭の中で天使と悪魔が議論し始めた。彼らはかなり激しい議論を交わしていたが、結局、「人違いから始まる恋もある」という僕の説得により、天使が折れることとなった。  「はいそうです。ワクワクの人です」
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完全に僕を何かと間違えていた美女
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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