一組だけ対戦相手が違った「和牛」
最後にやはり「和牛」に触れたい。
2015年に復活した第11回大会から昨年まで4年連続決勝進出。そして、3年連続準優勝。合わせ技一本で「王者」と言っても過言ではない、「現代漫才界の最高傑作」「M-1の帝王」、それが「和牛」である。
漫才師たちは己の漫才を武器にその他の25組と殴り合う。それが準決勝なのだ。しかし、「和牛」だけが対戦相手が違う。「和牛」の対戦相手は「和牛」なのだ。そう、過去の「和牛」との戦いなのだ。
「M-1グランプリ」の決勝では出場者にキャッチフレーズがつけられる。俺が「ハリガネロック」として決勝大会に出場したときのキャッチフレーズが「武闘派」だった。「和牛」は初出場の第11回大会は「心にさされ!非情な愛のボケ」と「和牛」自体の紹介をキャッチフレーズにしている。第12回大会は敗者復活戦からの決勝進出なのでキャッチフレーズはなく、前年準優勝をして挑んだ第13回大会は「3度目の正直」と優勝候補としてのキャッチフレーズをつけられ、昨年はなんと「第4形態」という漫才の「進化」を匂わすキャッチフレーズである。
ここ数年は番組サイドからも高いハードルを設けられ、それを「和牛」は超えてきたのだ。例えるなら「和牛」は毎年最高級な大トロクラスの「ネタ」を提供してきた。それが2年前の「仲居さん」ネタであり、昨年の「ゾンビ」ネタである。
赤身を食べていた人が中トロを食べたときに「うまい」と感じるが、大トロを食べ続けた人は贅沢になる。普通の大トロでは満足しなくなる。しかも、それが中トロにでもなろうものなら「おいしくない」と思うかもしれない。俺の年になれば大トロは脂が乗りすぎていて、中トロが「うまい」と感じるときもある。しかし、繰り返しになるが「M-1グランプリ」は「新人発掘番組」という一面もある。「脂が乗りに乗った大トロを食す」。これが「M-1グランプリ」なのだ。
3年連続準優勝して、全国区の人気を獲得し、誰もが認める漫才師である「和牛」だが、「M-1グランプリ」の王者になるには、自分たちで作り上げた大トロを超える大トロのネタを提供しなければならない。「和牛」に対して「海鮮」で例えるのはいかがなものかと思うし、俺みたいな「赤身」がこういうことをいうのは「和牛」に対して失礼なのだが、準決勝の「和牛」は過去の「和牛」を超えていなかったと俺は感じた。
「これ、『和牛』ないぞ」。映画館を出るときに俺は思った。俺はTwitterに「今回はメンバーがガラリと変わるかもしれません」と投稿した理由は、「和牛」敗退を感じて、審査員はそこから大きなシフトチェンジをするのではと感じたからだ。「見取り図」も「かまいたち」もなく、「全組初出場」という舵を切るのではとも感じた。
「和牛」が敗者復活戦に出場する。2016年の第12回大会以来となる。当然、その年は勝ち上がっている。しかし、あのときと今の「和牛」は違う。今は「M-1の帝王」なのだ。こんな屈辱はない。「和牛」は「猛牛」となるだろう。敗者復活戦の勝ち上がりが目標ではないはず。準決勝に敗れてなお、彼らの目標は「優勝」なのだ。
俺が涙を流して笑ったコンビが「マヂカルラブリー」だった。A氏に聞いた。
「『マヂカルラブリー』って会場でウケてました?」
A氏は答えた。
「いや、そーでもなかったですねー」
ウソーー!! めっちゃ面白かったのにーー!!
今年の敗者復活戦は、前年までのネタ時間3分ではなく、決勝と同じ4分だ。より一層、敗者復活戦からの優勝がしやすくなった。
全コンビの「人生」を見ろ!!
<取材・文/ユウキロック 撮影/荒熊流星>
1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『
芸人迷子』