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ホラーがヒットしないのは「経済的にしんどいし現実が苦しい」のが原因!?<劇画狼×崇山祟対談>

コンプライアンスがホラー漫画を殺す?

崇山:’90年代の話が出ましたけど、あの頃は古いホラー漫画の復刻やら殺人鬼の実録雑誌とか怪しい本がたくさんでましたよね。僕もいろいろ熱心に読んでました。’93年創刊のホラー漫画誌『ホラーM』などホラー専門漫画雑誌も盛んな時代でしたよね。 劇画狼:当時は僕らは中高生くらいだったんですけど、少女向けホラー雑誌もたくさん出ていたし、全体的に過剰供給ぎみと言っていい状態だった。 崇山:’80年代には『13日の金曜日』とか『死霊のはらわた』とか、ホラー映画も流行りましたよね。それにあやかって、僕が集めてる企画色の強い、読み切りホラー漫画も大量に出版されました。 劇画狼:でも、ホラー漫画は’90年代末くらいから下火になり、現在に至ります。やはり、’97年に起こった中学生による連続殺傷事件「酒鬼薔薇事件」こと、神戸連続児童殺傷事件の影響が大きかったと思います。あれで少年漫画誌での残酷描写が問題視され、首がポンポン飛ぶような描写が一気に減っていった。 崇山:ホラー漫画界の巨匠、御茶漬海苔先生と伊藤潤二先生も、あの事件の影響は大きかったとおっしゃられていました。あと、日野日出志先生は残酷描写てんこもりのビデオ作品「ギニーピッグ」シリーズに関わられていましたけど、’89年に幼女連続誘拐殺人事件で逮捕された宮﨑勤の部屋にこのビデオがあったことが話題になり、仕事がどーんと減ったとか。以降、ホラー漫画家は、悲惨な事件があるたびにコンプライアンス問題で仕事が激減する状況に。しかも今は、残酷描写に限らず、あらゆる側面からコンプライアンスが問題視されるようになったので、過激な表現に関しては一番低調な時期なのかもしれませんね。 劇画狼:あと、’80~’90年代のホラーが流行ってた頃と比べると、今って生活の余裕が全然ないですよね。バブル期前後って、ある程度生活が保証されてたからこそ、人が酷い目に遭う不幸な作品を娯楽として楽しむ余裕もあった。でも今は、経済的にしんどいし、現実が苦しいから、これ以上暗いものを取り込みたくないという人が増えているような気がします。 崇山:僕が集めている、思いつきで作られたような漫画も、言ってしまえば景気が良かったから出版されてたんですよね。森由岐子先生の血液型シリーズとか、鬼城寺健先生の『呪われたテニスクラブ』とか。後者なんて「今は軽井沢が流行ってるから、やっぱテニスクラブものだろ」くらいの軽いノリで作られたんだろうな(笑)。でも、僕はこういう豊かな時代の、作家さんが潤っていた時代の漫画が大好きで、憧れます。

崇山祟所有の漫画

ホラー漫画に救われた

――2人が初めて魅力を感じたホラー漫画は何だったのでしょうか。 劇画狼:小学校低学年の頃に『月刊コロコロコミック』で読んだ、玉井たけし先生のギャグ漫画『魔界ゾンべえ』ですね。魔界から人間界にやって来たゾンビの子供が主人公なんですけど、腐ってるから、ちょっとしたことですぐ身体がバラバラになるんです。その頃の「人体が粗末にされる=面白い」という刷り込みが大きすぎて、いまだに紙面上で人体がバラバラになることが楽しくて仕方がない(笑)。だから、山野一先生の鬱漫画『四丁目の夕日』で、お父さんが輪転機に巻き込まれちゃうところすらも、自分的には面白いシーンなんです。 崇山:僕は、従兄弟のお姉ちゃんが持ってた日野日出志先生の本が原体験ですね。当時は直接本に触わることすらおぞましく、ビニール越しに持って読んでいました。そんな僕ですが、一転して今は全然ホラーが怖くないんです。スプラッターシーンとかを見ても、「カッコいい!」としか思わない。怖いという感情が、ある時期からぱったりと抜け落ちてしまった。 ――何かきっかけはあったんですか? 崇山:昔、10tトラックに脚を踏まれたことですね。自転車が緩衝材になって、潰されこそしなかったんですけど。その時、試験官に指突っ込んだら抜けなくなった、くらいの感情しか湧かなかったですよ。人って、死にそうになると逆に冷静になるんだな、って。それ以降ですね。かつての、怖い話を聞いてトイレに行けなくなってた頃の気持ちを取り戻したくて、30歳過ぎてから古本屋に通って古いホラー漫画を漁るようになったんですけど、全然ダメでした。でも代わりに、その趣味をきっかけに“青春”を取り戻すことができたんですよ。 劇画狼:青春って? 崇山:35歳くらいから始まった、中年の青春です。それがあったから、一度リタイアしていた漫画へのモチベーションを取り戻し、執筆を再開できたんですよね。’90年代は「くだらねー」って茶化して読んでいたホラー漫画ですが、読み込むに従って、だんだん愛情が湧いてきたんです。なんか、染み入るなーって。むちゃくちゃ面白いかと言ったら疑問符のつく漫画も多いんですけど、ほのぼのしてて、味わいがあって、慰められる。再び漫画の世界に戻るきっかけをもらえたという意味で、僕はホラー漫画に人生を救われたなって思ってます。あ、でも、実は今、ちょっと悩んでいるんですよね。僕は、果たしてホラー漫画家なのか? って。 劇画狼:じゃあ例えば、『シライサン』を読んだ編集者に「女のコの絵が可愛かったので、ホラー要素は一切なしで、この絵柄で学園ものをやりませんか?」って言われたらどうします? 崇山:全然やります! 僕はジャンルにはそこまでこだわってなくて、ただただ漫画家という職業に憧れているんですよ。 劇画狼:すでに漫画家じゃないですか(笑)。 崇山:もっと締切に追われて「わー!」ってなったり、複数の連載で「うおお! 描けない……」みたいな状況に陥ってみたいです。だから、非ホラー作品も描きたいです。あとは、どうやってそこにお化けを登場させるか…… 劇画狼:だから、ホラー要素は無しって話だって! やっぱり企画の趣旨を無視するわけね(苦笑)。 崇山:あ、つい(笑)。これはもう、ホラー者の性なんでしょうねぇ。 取材・文/辻本 力 撮影/杉原洋平
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シライサン ~オカルト女子高生の青い春~

ホラーSF漫画『恐怖の口が目女』が大きな話題を読んだ漫画家・崇山祟(たかやまたたり)が、 今度はホラー映画『シライサン』のコミカライズに挑む!


全身編集者

伝説の雑誌「ガロ」元副編集長が語り下ろした半生記・半世紀

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